2023年04月27日(木)

日本の人口と住宅産業のこれから_6 孤独死対策

「2025年問題」という言葉を聞いたことはありますか? 戦後に生まれたいわゆる「団塊の世代」が全員75歳以上の後期高齢者になるのが2025年なのです。認知症高齢者や年間死亡者数の増加、高齢者単身世帯の増加などによって、社会構造が大きく変わり、必要とされる福祉サービスも大きな変化を余儀なくされます。

介護・医療難民が増え、介護施設に入れない高齢者が自宅で暮らすことを余儀なくされ、徘徊や孤独死が増えることが予想されており、すでに墓地や葬儀場、火葬場が足りないという実態もあります。

特に孤独死は近隣住民にとっても大きな影響があります。死後の発見が遅くなるほど、悪臭や衛生面などの具体的影響が出てしまい、特に集合住宅の場合は物件価値にも影響します。

高齢者の独居は家族関係の変化など、どうすることもできない面もありますが、例えば地域の見守りあいがあるだけで福祉サービスとの適切な連携が可能になりますし、IoTによる見守りシステムなどによっても高齢者の孤立を防ぐことができます。

いずれにしてもこうした高齢者福祉を支えるには財源が必要です。自治体の税収が減るなかで、どのような対策が最も有効なのか、これは個人の問題ではなく社会全体で考えていく必要があります。

2023年04月24日(月)

日本の人口と住宅産業のこれから_5 住宅への影響

少子高齢化は経済や社会保障への影響が甚大であることは前回述べた通りですが、住宅問題としても大きくクローズアップされています。直近の課題は「空き家」問題です。

地方に行くと朽ち果てた空き家が点在している姿を目にすると思います。実は首都圏でも例外ではなく、郊外住宅地での空き家は確実に増えています。現在、日本では800万戸以上の空き家があるとされ、民間シンクタンクの調査によると、今から10年後の2033年には30%もの住宅が空き家になると予測されています。

空き家が増えるのは、住民の高齢化によって老人施設への転居や、死去に伴い住まい手がいなくなるからです。家族が同居していれば空き家になることを回避できますが、多くの場合は他の地域に移動して、その家を維持するために戻ることはないため、そのまま放置してしまうといったケースが見られます。

空き家の問題は、日常的な管理が行き届かずにその土地や建物が荒廃してしまい、景観への影響や、防犯の不安などが挙げられます。盗難や犯罪の温床になることもあり、自治体の中には空き家対策を優先課題とうるところもあります。

2023年04月20日(木)

日本の人口と住宅産業のこれから_4 少子高齢化の何が問題なのか

実際に、少子高齢化は何が問題なのでしょうか。いくつかの影響があるので、簡単に説明しましょう。

人口を大きく分けると、年少人口(0〜15歳未満)、生産年齢人口(15〜64歳)、老年人口(65歳以上)の3つがあります。まず挙げられるのが、経済への影響です。生産年齢人口が減少すると、日本の経済を牽引する力が弱体化します。また、少ない生産年齢人口が労働不足を補うために長時間労働を強いられ、ますます少子化が進行してしまう負のスパイラルが起こっています。

生産年齢人口が減ると、自治体にとっては住民税の税収が減り、医療や介護、教育、保育などの社会的なサービスを満足に提供できなくなる恐れがあります。高齢者福祉に不可欠な医療や介護の施設が足りなくなり、そこで働く人が十分に確保できなくなる可能性も指摘されています。高齢化による社会保障費の増大は避けられず、必要な社会保障の維持のために、社会保険料の値上げや医療費負担増、また現役世代の得られる年金額の低下などが待っています。

2023年04月17日(月)

日本の人口と住宅産業のこれから_3 1.57ショック

 

少子高齢化が日本の大きな課題として広く認識されるようになったのは、人口減少時代に突入した2000年台に入ってから。合計特殊出生率(1人の女性が生涯に出産する人数)が2.0を下回った国は総人口を保つことが難しくなるとされています。

平成元年(1989年)の合計特殊出生率が1.57になった時に「1.57ショック」という言葉が生まれました。それまで日本の合計特殊出生率が過去最低だったのは1966年(丙午の年)の1.58で、その数字を下回ることはまずないと考えられていたからでした。

ちなみに、丙午(ひのえうま)とは、60種類ある干支の一つで、「丙午生まれの女性は夫を食い殺す」という迷信があったことから、人口ピラミッドを見ると丙午にあたる1966年の出生率がガクッと減っているのです。もちろんそれは迷信ですが、3年後の2026年に60年ぶりの丙午がやってくるので、その時の出生率がどうなるか今から注目が集まっています。

ちなみに最新の合計特殊出生率は1.30。過去最低レベルを推移しており、政府や各自治体が打ち出す「少子化対策」や「子育て支援」がどのように効果を及ぼすのかの方に注目すべきでしょう。

2023年04月13日(木)

日本の人口と住宅産業のこれから_2 人口減の現実

新築住宅の着工棟数の減少が始まったのは2009年で、前年のリーマンショックによる景気減衰の影響が大きいとされています(2008年度は108万戸→2009年度は77万戸)。その後は80〜90万戸の間で推移していますが、一方で人口減少の影響も確実にあると言えそうです。

日本の総人口が減少に転じたのは2008年のことです。1億2808万人をピークに、その減少幅は2020年代に入ってより大きくなっています。その原因として、非婚化・晩婚化やそれに付随する出生率の低下が挙げられ、少子高齢化が猛烈な勢いで進んでいます。高齢化の要因としては医療技術の進歩や生活環境の改善から平均寿命が長くなり、死亡率が低下しているためで、それ自体はよいことではありますが、一方で高齢者の福祉や医療を支えるための財源が圧迫しています。

政府が近頃「異次元の少子化対策」を打ち出しましたが、経済、社会、税制など多方面において深刻な影響を与えている少子高齢化について、もう少し詳しく紐解いてみたいと思います。

 

2023年04月10日(月)

日本の人口と住宅産業のこれから_1 新築着工棟数の変化

日本の人口減少は2008年に始まりました。少子高齢化が日本の大きな課題となり、政府は「異次元の少子化対策」を打ち出し、住宅産業界でも「こどもみらい住宅支援事業」や、自治体による子育て応援マンションや賃貸住宅、ハウスメーカー各社も「子育てしやすい住まい」の提案が盛んです。

人口が減少すると、当然ながら住宅産業も打撃を受けます。新築住宅の年間着工棟数は1990年台までは年間120〜140万戸で推移していましたが、2009年に100万戸を下回って以来、減少の一途を辿っています。民間シンクタンクの調査によると、2025年度には80万戸、2040年度には50万戸を下回ると推計されており、住宅産業としても新築偏重のビジネスモデルは今後持続可能でなくなっていく可能性があります。

今月は人口減少と住宅産業のこれからについてお話しします。

2023年03月30日(木)

耐震グレーゾーン住宅を解消したい(8)まずは耐震診断から

耐震診断を行う場合、お客様には何らかの不安があり、その不安には原因があります。耐震診断の結果、耐震性能を満たしている基準が「1」とすると、だいたい「0.2」とか「0.3」という数字が出てきてしまいます。数字の結果だけ見ると「この家、壊れてしまうんですか?」とますます不安に陥ってしまいますが、現時点でその家は建っているので、すぐに命に直結するわけではありません。首都圏に大震災が起こった時に、その家の中にいた場合に倒壊してしまう危険性があるということで、それも可能性の話なのです。

事前に診断を申し出てくださったことで、その不安は解消できる可能性が高いのです。壁量が足りなければ、目立たない押し入れ等に耐力壁を入れ、それだけで足りない場合は居住性を損なわないよう工夫しながら筋交を入れる、金物で補強するなどの対策をとります。

人一人ひとりが異なるように、家の耐震性能もその家によってまったく異なります。「旧耐震」「新耐震」「2000年基準」という言葉だけで判断せず、専門家に依頼して正確な状態を把握しましょう。そのうえで、その家にあったオーダーメイドの耐震診断、そして必要な改修をしていくことで、必要以上に不安にならず、的確な耐震対策をしていくべきです。

ご不安なこと、ご不明点があれば、お気軽にお問い合わせください。

 

2023年03月27日(月)

耐震グレーゾーン住宅を解消したい(7) 耐震診断のプロとして不安の原因を究明する

私は東京都建築士事務所協会に所属しており、耐震診断のプロとして、これまで数々の木造戸建て住宅の耐震診断に関わってきました。私が耐震診断をする時に心がけているのは、淡々と事実をお伝えして、過度に地震に対する不安を煽らないようにする、ということです。

旧耐震の建物であっても、「震度5程度の揺れでは倒壊しない」ことが前提に建てられているため、今住んでいる家の耐震性が十分でなくても、今すぐに命を落とすわけではない、という前提に立ちます。まずは正確な状況の判断に努め、何をどうすれば耐震性能を確保できるのかを的確に判断していきます。耐震診断を依頼される、という時点で、そのお客さまは何らかの不安をもって我々に問い合わせてくださいます。何が心配なのかを明らかにして、その原因を確実に解消していく。旧耐震で壁量自体が足りないのか、雨漏りしていて構造体が劣化しているのか、グレーゾーン住宅で壁の配置のバランスが悪いのか、その原因を究明することによって、適切な対処ができるようになるからです。

 

 

2023年03月23日(木)

耐震グレーゾーン住宅を解消したい(6) 東京都建築士事務所協会の提言

私が所属している「一般社団法人東京都建築士事務所協会」では、昨年11月に「新耐震グレーゾーン木造住宅耐震化促進についての提案」を行いました。熊本地震の現地調査や、事務所協会でのこれまで行ってきた数々の調査分析をもとに、東京都内の木造住宅の耐震診断実績等を交えて、細かく検証を行っています。私も数多くの住宅の耐震診断をしてきましたが、グレーゾーン住宅では耐力壁の壁量は基準を満たしていても、開口部の大きな南側と北側での壁量のバランスが悪い、柱と梁の接合部の金物の仕様が異なるなどの課題が見つかっています。

事務所協会の調査結果から、グレーゾーン住宅の耐震性能は旧耐震と2000年基準の中間に位置しており、本来必要とされる耐震性能を下回るものが多いことがわかりました。温暖化対策やエネルギー対策から屋根への太陽光発電パネルの搭載が増え、屋根荷重が増大してさらなる耐震性の向上が求められています。こうしたことを踏まえ、事務所協会ではグレーゾーン住宅の耐震化に関わり、都内自治体での耐震化補助への提言を進めていくこととしています。

2023年03月20日(月)

耐震グレーゾーン住宅を解消したい(5)グレーゾーン住宅耐震改修への補助が必要

東京都は「東京都耐震改修促進計画」において、令和元年度末までに都内の86%の住宅が耐震基準を満たしているとされており、令和7年度末までに耐震性が不足する住宅をおおむね解消する目標を掲げています。ここでいう耐震基準とは「新耐震」のことで、「2000年基準」ではないため、1981年〜2000年のいわゆる「グレーゾーン住宅」も含まれることになります。

東京都内ではグレーゾーン住宅に対して耐震リフォームの補助を実施しているのは、港区、杉並区、江戸川区、三鷹市の4自治体です。首都圏直下地震のリスクがある現状では、新耐震基準を満たしていれば十分という認識から、今後は2000年基準を目指した耐震助成が増えていくべきだと私は考えています。1981年以前の旧耐震基準の住宅は今後築年数の経過に伴って淘汰されていくことでしょう。今後はグレーゾーン住宅自体が耐震診断の対象となり、2000年基準の耐震改修への補助が広がっていくことを期待します。