産地と一緒に「命のリレー」を続けたい

匠の会では活動のなかで、これまで、主に構造材を仕入れている産地の和歌山県・山長商店さんと一緒に、都会の小学校で種から杉・檜の苗を育てて、それを林産地で植えようという取り組みをしてきました。その時に驚いたのが、地元の和歌山の小学生と一緒に植樹したのですが、現地の子どもも山に苗木を植える体験は初めての子が多かった、ということです。

杉や檜の苗はとても小さくて、植えても必ず芽が出るとは限りません。苗木を育てるのも大変ですが、それを1本の木に育てるまでは50年、60年とかかり、途中で間引きや枝打ちなどをしなくてはならず、とても手間がかかる作業です。苗木を育てることで、木の一生に思いを馳せ、それが住宅として長く住み継がれていく様子を伝えていけたら……。

ここのところ忙しくて途切れていましたが、またこの「命のリレー」を復活したいと考えています

日本は世界屈指の「森林国」

日本の森林は約2500万平米あり、国土の面積が3779万平米なので、国土の約66%、つまり3分の2が森林に覆われている、世界でも屈指の森林国です(1位がフィンランド、2位がスウェーデン)。日本の森林のうち5割が天然林、4割が人工林(杉や檜など建築用材として植えられた林)で、その他が残り1割です。

日 本の森林面積はこの40年、ほどんど変わっていませんが、森林蓄積(木の幹の体積)は年々増え続け、過去40年間で2.3倍に増えているそうです(http://www.shinrin-ringyou.com/forest_japan/koutai.php)。こうした数字から、増え続ける資源を有効に活用していくことが大切であり、それが国内産業を活性化することにもつながります。

一方で、林業に関わる人の高齢化、担い手不足の問題は深刻です。使うべき資 源があるにも関わらず、担い手がいなければ、林業を持続可能にしていくことは不可能です。林業で食べられる人を増やしていくことが、これから急務になるのではないでしょうか。

お客様に引っ張ってもらっている

日本で木材自給率が向上し、住宅建築で国産材を使うことが再び一般的になってきたのには、消費者の意識が変わってきたことにもあるのではないか、と思います。『チルチンびと』のような雑誌が、木の家づくり、木のあるライフスタイルをリードしてきたことには間違いありませんが、お客様自身が「無垢材の家をつくりたい」という要望を持っていなければ、いくら工務店側がそう思っていたところで、実現できません。

昔は「柱は檜でなくてはならない」という意識が根強く、杉を構造材に使うことに、建て主も工務店も抵抗があったことも否めません。しかし、今では杉が構造強度に優れていることが科学的に明らかになり、また乾燥の仕方によってより強度が高まるなど、技術面が向上して、杉を構造材に使うことが当たり前になってきました。

こうした社会的な状況と消費者ニーズが、国産材を使うことを後押ししてくれるようになったと言えましょう。

身近にある「木」という宝に焦点を当てる

日本の林業が持つポテンシャルを社会に示し、大きく話題になったのが2013年に発売された『里山資本主義 —日本経済は安心の原理』です。バイオマスの有効活用や大断面の集成材で世界に打って出る岡山県の銘建工業や、一方で身近な木屑を燃焼効率のよいエネルギーに変える「エコストーブ」の活用など、さまざまな木材の活用法を示していて、私たちの日本社会が「地元にある宝」に目を向けるきっかけづくりをしています。

大丸建設でも、建設現場から出た端材などを活用して、「土曜日の日曜大工講座」をスタートするなかで、人々のコミュニケーションを育んだり、子どもの力を引き出すなど、木の持つ可能性を感じています。大丸流の「里山資本主義」を考えてみたいなあ、と発想は広がります。

この15年での大きな変化

大丸建設が「チルチンびと『地域主義』工務店の会」で活動を始めて約15年。その間、国産材の需要が高まり、間伐材の有効活用などへの意識も高まってきています。例えば、林産地では木質バイオマス発電や熱利用なども増え、例えば間伐材のペレットを温泉の追い炊きに使ったり、製材所の動力としてバーク材(製材時に出た木の皮など)を活用するなどの事例も出ています。

一方で、杉材の建築材料としての合理性、強度なども具体的な数字として表せるようになってきました。例えば杉材の耐久強度試験などの数字が向上し、ヤング係数(弾性係数とも呼ばれて、木材の曲げやたわみに耐える強度のこと)なども表示されるようになり、木造住宅の構造材としての国産材の価値が見直されるようになりました。

集成材や構造用合板といった、国産材の木質建材も産業も活性化しつつあります。

大丸建設が原点回帰して15年

大丸建設はもともと、明治初期に宮大工として創業した家系で、日本の材木を使うことに長けていました。しかし、戦後の経済成長期に住宅にも大量生産・大量消費の波が押し寄せ、新建材や安い外国産材が主流となった時代、大丸建設も一般的な住まいづくりを進めていた時期もあります。

現社長の安田昭が2013年、「チルチンびと『地域主義工務店』の会」の設立に参画したことがきっかけで、仲間の工務店たちと一緒に今後100年、200年と続く住まいづくりを深く考えました。今後、私たちが未来に残していきたいのは、日本の材を使い、日本の大工技術を未来に伝えていくこと。そして、新しい技術と研鑽を積んでおこなっていくことではないかと考え、私や兄をチルチンびとの会に連れ出し、勉強と研鑽を積みました。その時に国産材と自然素材の家作りに原点回帰し、今に続きます。

外国産材に追われていた国産材

私が大丸建設で仕事を始めた20年前ほど前は、木材の自給率は20%を割れていました。外国の安い木材に押されて国産材の需要が低迷し、林業に携わる人たちの手間代が十分に回らない状況でした。企業も、安価な外国産材や合板を使い、原価が安くて簡単なキット化した家づくりが主流になりました。

お客様のニーズに合わせて、日本の尺寸法に合わせた手刻みの家づくりは、どこか古くさいとする風潮さえありました。

戦後の拡大造林政策の弊害もあったと思います。日本の山は、針葉樹と広葉樹がほどよく混じった「混交林」から、戦時中の木材需要で広葉樹が切り倒され、早く「材」になりやすい杉が戦後に一気に植えられて、多様性の少ない山になってしまいました。花粉症が国民的な現代病になっている今、極端なモノカルチャー(単一の作物だけを使う環境破壊)の問題が浮き彫りになった一事例と言えるでしょう。

木材の自給率が回復してきました

大丸建設は、ほぼ国産の無垢材を使用し、自然素材を使った家づくりをしています。国産材を使うことが、日本の一次産業である林業を活性化し、日本の森林が持つ公益的な機能を維持し、水源の涵養、緑のダムの機能、景観の保全などにつながっていきます。また、日本の大工、建具職人など、木使いの文化を未来につないでいくことができます。

この20年間の国産材の自給率を見てみると、平成26年度の木材自給率は31.2%となり、昭和63年度より26年ぶりに30%台に回復しました(林野庁『木材受給表』平成27年9月発表)。20年前には20%を割れていたことを考えると、この数字はひとまずは喜ばしいことだと考えます。