社会の化学物質(7)  「香害」の加害者にならないために

前回、香害(こうがい)は、誰もが被害者にも、加害者にもなりうるものなのだと書きました。現代社会は多様な化学物質に囲まれ、何かしらの化学物質が含まれた製品を使うことは誰にも避けられないことです。また、化学物質があるからこその利便性を享受できていることも事実です。ものごとは全てプラスの面と、マイナスの面があるので、ゼロリスクにすることは現代社会を否定することにもなりますし、それは現実的ではありません。

一方で、香害についての知識があれば、自分が加害者になることを防ぐことはできます。「長時間香りが持続する」という効果をうたった柔軟剤や合成洗剤を使わないこと、化粧品や整髪料等を購入する時には、香り成分ができる限り自然由来のものを選ぶことならば、誰にでもできることです。自分にとっては心地よい香りであっても、他の誰かを苦しめる可能性がある、ということを知っておくだけで、自ずと選択や行動が変わってくるのではないでしょうか。
 

社会の化学物質(6)  「香害」はアレルギー反応の一つ

柔軟剤や洗剤、化粧品等の香り成分が由来となって、周囲の人々に健康影響を与えてしまう「香害」(こうがい)。香害は化学物質過敏症の一つで、誰もが被害者になる可能性があります。人によって化学物質の許容量が異なり、まるでコップから水があふれ出るように、体内で許容できる化学物質があふれた時に、健康被害という形で現れます。コップの容量が小さい子どもほどリスクが高くなるので、特に小さなお子様がいるご家庭では注意が必要です。

花粉症を例にするとわかりやすいですよね。私が子どもの頃は、花粉症はそれほど多くの人に現れるアレルギー反応ではありませんでした。ところが今は、春先になると、実に多くの人がくしゃみをしたり、目をこするシーンを目にします。スギ花粉由来の花粉症が多いですが、最近ではヒノキ、ブタクサ、イネなども……。花粉だけの問題ではなく、道路のアスファルトやクルマの排気ガス、そして香害も含めたさまざまな化学物質が複合的に絡み合って、国民病と言われるほどに広がりました。

香害は、新しい公害とも言える社会課題です。誰もが被害者にも、加害者にもなりうるものなのです。

社会の化学物質(5)  「香害」は化学物質由来だけではない

「香害」(こうがい)の原因となる物質は、主に、柔軟剤等の香りを長く持続させるためのマイクロカプセルに包まれた合成科学物質に由来します。マイクロカプセルには香り成分だけでなく、合成海面活性剤などさまざまな人工化学物質が含まれており、これらが空気中に揮発して鼻や喉から吸い込むことにより、化学物質が肺をはじめ内臓にたまり、さまざまな健康被害を引き起こします。

いったん化学物質過敏症を発症すると、人工的な合成化学物質だけでなく、自然由来の香料にも反応してしまうケースがあります。自然由来のアロマオイルなども香りが強いため、過敏症の方は体調に影響する場合もあります。

住宅の化学物質も同様で、合成化学物質だけでなく、自然由来の木材に含まれる香り成分への反応がある方もいます。たとえば、ヒバに含まれるヒノキチオールについては、私自身も反応してしまうため、自然由来だから大丈夫、というわけではありません。

社会の化学物質(4)  「香害」はどこで発生するのか?

「香害」(こうがい)は、香りに由来する新しい「公害」ともいえる現象で、香料に含まれる合成化学物質による化学物質過敏症の一種です。

香害をなくす連絡会が2019年から2020年に行った「香りの被害についてのアンケート」では、香害被害を受けた場所として、乗り物の中、店舗、公共施設、自宅(隣家からの洗濯物のにおい)が上位で、職場・病院・学校と続きます。

乗り物、特に電車のように人との距離が近いところでは、隣に座った人の洋服から香る柔軟剤の香料や、化粧品・整髪料の香りが、香害の原因になることがあります。喫煙者の衣服に染み付いたタバコのにおいも同様です。

店舗では、柔軟剤や化粧品のサンプル、アロマディフューザーの香りなど、さまざまな香りで満ちていますので、それが苦手な人には影響が大きいです。

店舗のように、「香害の原因物質がありそうだ」と想定される場合は自衛が可能ですが、たまたま隣り合わせたりすれ違う「人」に染み付いた香りを避けることはできず、それを避けようとすると社会生活に大きな影響を及ぼします。

 

社会の化学物質(3)  「香害」の症状

「香害」(こうがい)は、読んで字のごとく「香り」に含まれる化学物質が原因となって発症する化学物質過敏症のことを指します。その原因物質は香料に含まれる合成化学物質です。合成洗剤、柔軟剤、化粧品、香水、整髪料、芳香剤、石けんやシャンプー、入浴剤など、生活必需品の多くに合成化学物質が使われています。特に「香り」は揮発性があるものなので、鼻から吸い込み、目や鼻の粘膜にも刺激を与え、五感のうち特に嗅覚に影響して、体全体に影響を及ぼします。

健康被害の症状としては「頭痛」、ついで「吐き気」がダントツで多いです。思考力低下や疲労感、めまいなどが続き、症状としても化学物質過敏症に近く、対策としては香害の原因物質を極力身の回りにおかないことが大切になります。

しかし、香害の場合は、自分や家族が意識をしていても、気付かぬうちに香りの被害に直面することがあります。

 

社会の化学物質(2)  「香害」とは何か

近年、柔軟剤や化粧品等に含まれる化学物質によって、頭痛やアレルギー、不快感などの健康影響を生じる人が増え、その状況は「香害」(こうがい)として広く社会に知られるようになりました。

「香害」という言葉が使われるようになったのは2000年代に入ってから。それ以前にも言葉がないだけで、化粧品や香水等の香りによって体調不良を訴える人は一定数いたとされます。農薬や合成洗剤等による化学物質過敏症は1960年代からありましたが、特に香害が広がったのは、洗濯物に入れる柔軟仕上げ剤が広く普及してからとされます。香りを持続させるために、目に見えない微細なマイクロカプセルに香料を包み込み、そのカプセルが衣類や肌等に付着して長時間人体の近くに存在することで、肺などの臓器に吸い込まれて体内に蓄積してしまいます。これが、従来よりもひどい「香害」をもたらすようになったのです。

 

 

社会の化学物質(1)  ここ数年話題になっている「香害」

昨年12月のブログで「化学物質過敏症」について紹介したところ、「人によってこんなに症状が違うんだ」「反応する物質も違うことがわかった」「自分は大丈夫でも人にとっては苦しいこともあるんだ」といった反響が寄せられました。

化学物質過敏症は、広義でいえばアレルギー反応の一種ですが、花粉症で苦しむ人もいれば、建築物に含まれる接着剤の物質に反応する人もいますし、タバコの副流煙がどうしても苦手という方もいます。

ここ数年話題になっているのが「香害(こうがい)」です。洗濯物の仕上げに使われる柔軟剤の匂いが強烈で、その芳香性の化学物質にアレルギー反応を起こす人が一定数増えています。アレルギー症状がひどくなると、学校の給食着についた香りに反応してしまう、マンションの隣の家の洗濯物から風にのって香りが漂うことで頭痛がするなどの反応で苦しむ人も出てきています。それが社会問題となって新聞やテレビなどのメディアで紹介されることも増えてきました。

今月は「香害」を中心とした、社会に広がる化学物質についての話題をお届けします。