伝統的建築物の美 (6)伝統建築のおさまりに注目

私自身、伝統建築物を見る時に最も注目するのは、柱や梁の接合部やおさまりといった、構造的な部分です。現代の住宅では耐震性や合理性のために釘や金物で接合部を固定することがほとんどです(これは現代の構造計算上は致し方ないことで、金物を使うことを否定しているわけではありません)。

伝統建築物では金物は使わず、貫(ぬき)や「ほぞ」といった、金物を使わず凹凸を組み合わせる、木の板をかませることで木を接合する、といった構法が用いられます。

伝統構法では、木目の流れや季節によって収縮と拡張を繰り返す木の持つ性質を最大限に生かし、木を組み合わせることによって釘や金物を使わずに済みます。金物は湿気によって錆びたり劣化するため、貴重な木材を再利用していくためにも使用しないという選択をしていたのかもしれません。耐震性においても、木組の家は地震の衝撃をやわらかく受け止めて分散させることができ、高級な社寺建築が今も残るのはこのような木の性質を最大限に生かした技術によるものだとうかがえます。

伝統的建築物の美 (5)清水寺の壮麗さ

私は旅行などで伝統的建築物を見るのが好きです。特に好きなのは、京都の清水寺で、京都に出張で行けば必ず立ち寄るほど、これまでに10回以上見に行っています。

清水寺は「清水の舞台から飛び降りる」という言葉で知られます。清水寺の本堂の舞台は国宝、世界文化遺産に指定され、舞台にかかる屋根は「入母屋造」という、上部が切妻になっており、四方に久屋根をつけた造りになっています。

清水の舞台が迫り出した高さは約13メートル。およそ4階建ての高さになり、下から見上げても、上から見下ろしても、大迫力の高さです。そして、驚くべきことに、この清水寺本堂舞台は伝統構法でつくられており、いわゆる金物(釘など)は使われていないことが特徴です。18本の欅(けやき)の柱を傾斜に合わせて並べ、縦横に「貫(ぬき)」と呼ばれる欅の厚板を通して接合している「懸(かけ)造り」という構法です。

なお、清水寺の舞台の床は「檜」で、まさにこちらも「檜舞台」です。

伝統的建築物の美 (4)屋根にも注目したい

伝統建築物において、檜は柱や梁などの構造材として優れていますが、もう一つ、屋根材にも用いられる材料でもあります。

「檜皮葺(ひわだぶき)」という屋根をご存知ですか。読んで字の如く、「檜の皮で葺いた屋根」のことです。檜皮葺は、法隆寺が建築されたころの飛鳥時代に広まった技法と言われています。神社仏閣など、格式の高い建築物に使われていたといいます。

檜皮葺の屋根をつくるには、樹齢100年以上の檜から檜の皮を採取する、採取した皮を整え、厚みをそろえて、使用する部位に合わせて形状を整えるそうです。檜の皮を立木からむいて採取する技法も、樹木自体には影響しないような技法で、皮がむかれた樹木はその後建築用材として使えるとのことです。

檜皮葺の屋根の国宝は日本全国に数多く、出雲大社や厳島神社、北野天満宮、清水寺など、日本を代表する伝統建築物に用いられています。

伝統的建築物の美 (3)高級建築材の「檜」

「檜舞台」という言葉は江戸時代にはすでに認知されていたと思われますが、それだけ檜は、重要な建築物に用いられていた高級材であったことがわかります。現代でも能楽堂には檜が使われています。かつて能などの伝統芸能は野外の能楽堂で行われていたので、耐久性、耐水性、耐候性が高く、かつ素直で加工しやすい檜が建築用材として使われていたことがうかがい知れます。

檜が使われている代表的な重要建築物は、世界最古の木造建築でもある奈良県の法隆寺。1300年も前に建てられた法隆寺は、その6割以上が建設当初の檜材で、修復しながらも建築当時のものが残っているそうです。

日本の社寺建築の多くは、檜材が使われています。檜の木は伐採後に強度が増します。日本は地震や台風など天災が多いなかで、数百年にわたって風雨に耐えることができるのは、檜をはじめとした適材適所の建築様式が伝えられてきたからではないでしょうか。社寺建築を見る時に、ここは何材が使われているのか? と予想するのもおもしろいのではないかと思います。

伝統的建築物の美 (2) なぜ「檜舞台」なのか?

福岡県福岡市の大濠公園能楽堂は、耐震工事や座席のリニューアルのため、1年をかけて大規模改修工事を行なっていました。リニューアルオープンは2022年1月。それ以前もコロナ禍において公演中止などが重なっていたそうです。大丸建設のリモートスタッフのSさんご家族も、大濠公園能楽堂の舞台にあがるまで、長い時間がかかりました。

念願叶っての舞台は、まさに「檜舞台」。大濠公園能楽堂の舞台にも、無節の檜の柱が使われています。現代の能楽堂は、安土桃山時代に完成された舞台建築様式で、元々は野外に設置されていたものです。野外の建築物に使われる建築用材は、風雨に耐え、かつ虫害などに対する耐久性が高い必要があります。檜は耐水性、耐光性にすぐれ、防虫性も高いため、昔から野外の重要な建築物には重宝されてきました。檜独特の上品な色合いや、新築材の高貴な香り、節が少なく素直な木目なども、高級建築材として認められる所以でしょう。

檜は昔から高級木材として知られていたので、幕府が公認した伝統芸能の舞台にのみ使用することが許されていたと言います。誰でも檜舞台に上がれるわけではない、一流の証なのです。

伝統的建築物の美 (1) 能楽堂からの便り

大丸建設には建築現場で働くスタッフの他に、広報企画をサポートするパートスタッフが2名います。うち1名のSさんはご家族の転勤で大丸建設から離れた福岡県福岡市に引っ越しましたが、転居後もリモートワークで大丸建設を支えてくれています。Sさんはイベントや長期休暇時には二人のお子さんを連れて出勤することもあり、子どもたちが会社にくると社内の雰囲気が明るくなったものです。

そんなSさんから、先日可愛らしい写真とともに、メッセージが届きました。狂言を習っているお子さんが、福岡市の大濠公園能楽堂で舞台を経験したという写真が添えられていました。衣装を身にまとった姿に歓声がわいたのはもちろんですが、大丸スタッフの間で話題になったのが、能楽堂の建築様式。無節の檜の柱や、鏡面のように磨き上げられた床、橋など、能舞台独特の建築様式に目が奪われました。