見積もりのバリエーションも大切

 住宅建築の場合、それが新築であれリフォームであれ、予算の擦り合わせと納得は最重要事項です。リフォームがわかりにくいのは、何を、どの程度変えたらどのくらいのお金がかかるのか。部品交換型ならば、このパーツを変えれば幾ら、という話なのでカンタンです。しかし、本質改善型の場合、既存住宅ありきで、全体の状態を把握しながら優先順位を決めていくので、一概に幾らとは言いにくいのです。
 リフォームの場合、新たに工事を行う部分と、既存のまま残る部分が出てきます。その調和も大切です。部屋ごと、階ごと、パーツごとのリフォームの積み上げか、ある程度全体をいじる場合でも変わってきます。住みながらのリフォームの場合、工期もかかるし、部分部分を改善しながら最終的に全体を調和していくリフォーム手法が求められます。
 最初の提案のなかで、今改善したいすべてを変えればどのくらいの金額がかかるかの総額を提示し、本質改善のために外せない要素は何か、部品交換だから今急がなくても大丈夫なところはどこか、など、一つひとつ線引きできるような明確な基準を用意できれば、と思っています。

「何年その家に暮らすのか」が大切

 リフォームをどこまでするのか、そこで大切になってくるのが「何年その家に暮らすのか」、その家で「どう暮らしたいのか」です。自分にその家に暮らさなくなった時にどうしたいのか、家族に受け継いでもらいたいのか、中古住宅としてなるべく高く売りたいのかなどで、どのようにリフォームするのかが変わってきます。
 リフォームといっても、一回限りで考えず、お客様のライフステージ全体を通して、どんなリフォームが必要になっていくのかを提案していく必要もあります。今は耐震性の向上が最優先なので限られた予算をそこに注ぎ込むが、数年後にはお子さんが独立するだろうからその時までにお金を貯めて間取りを使いやすくする、10年後には外壁や屋根が傷んでくるはず……など、優先順位を決め、着手していく目処を提示することも大切かと思います。
 私たち大丸建設のスタンスはお客様と生涯にわたり長くお付き合いしていくことです。そのため、今、目の前の仕事をとることにとらわれず、総合的な視野でリフォームの提案をすることができます。

温熱環境の改善で快適性を高める

 本質改善型リフォームをしていくと得られる「安全・快適・長寿命」のうち、住まい全体の断熱性を見直し、夏場・冬場の熱損失を軽減して、省エネを実現していくことは、暮らしの快適性を高めることにつながります。北側の台所を南面にもってきて、日中住まいにいる時間の長い主婦が快適に過ごすことも可能です。内装の素材を自然素材に変えるだけでも快適性は大きく向上します。無垢材が素足にふれた時の温かさや心地よさ、調湿性能で室内の空気環境が清浄に保たれることも、快適の要因の一つです。ほかに、通風を確保し空気循環をよくする、開口部を適切に配置し明るい空間をつくるなども一つの手です。
 住まいをリフォームする動機として、中古住宅の寿命を延ばす「長寿命化」も大切です。建物の安全性を高める(耐震リフォーム)と、長寿命化してストック住宅としての価値を高めるという両側面があると思います。

本質的なリフォームは「安全・快適・長寿命」に向かう。

 部品交換型のリフォームでは、本質的な意味での住まいの「安全・快適・長寿命」は得られないものです。
 安全の定義は色々ありますが、まずは耐震性です。構造が安全かどうか、耐震診断等を通して判断していきます。
 また、温熱環境の改善も一つの安心につながります。昔の家のように、居間と廊下や脱衣所の温度差が激しすぎて、特に寒い季節はヒートショックなどで突然死する例もあります。こうした寒暖の差を緩和することに加え、建材による化学物質を精査しVOCフリーにしていくことや、結露やカビなどを防ぎ細菌感染やアレルギーを防ぐなどの対策は、健康と安全を両立することにつながります。

大丸の考える「本質改善型のリフォーム」とは。

 私がこれまでブログで述べてきた「大丸のリフォーム」のうち、リノベ学校でいう「本質改善型のリフォーム」は、大規模リフォームを指すと思います。最も大切なのはお客様との最初のヒアリングで、お客様がリフォームに何を求めているのか、それを聞き出すことです。お話を進めていくなかで総予算が決まり、どこまで現状を改善できるかをすりあわせることができます。
 以前は、表向きだけの「部品交換型リフォーム」を求めるお客様の方が大半でしたが、東日本大震災以降、本質的なリフォームに向かう機運が高まっているように感じています。耐震性への不安、住まいを長寿命化して大切に住み継ごうという価値観の変化、地球温暖化などの環境問題への関心の高まりから、住まいの断熱性を高めたいというお問い合わせも増えてきています。
 本質改善型リフォームとは、「暮らしの向上」と密接に結びついていると言えます。機能性や間取り、収納の多寡に集中しがちだったリフォームの関心事に、温熱環境の改善への要求が増えているような気がしています。

「本質改善型リフォーム」と「部品交換型リフォーム」

「1985リノベ学校2014」の初回を終えて、常務はたいへん学びになったといいます。野池先生によると、リフォームは「本質改善型リフォーム」と「部品交換型リフォーム」の大きく2つに分けられます。お客様に対して「何のためにリフォームをするのか」を問いかけ、そのうえで「何をリフォームするのか」の全体像を提示していく、そのために必要なのが「リフォームのパンフレット」であると、目標を得て帰ってきました。
 昨今のリフォームは、キッチンやバスルームなどの水回りの設備が古くなったから入れ替える、壁紙を張り替えるなど、劣化したパーツを取り替えるばかりの「部品交換型リフォーム」が主流です。本来的には、住まいの温熱環境の改善や、空気環境を清浄にしたり、暮らしの向上など、リフォームするための動機があるはずです。そのニーズを適切に察知し、暮らしの本質を改善するための提案ができるかどうかが、工務店にとって重要なのです。

今後リフォーム需要はますます増える

 大丸建設では、野池先生が匠の会で講師を務める「匠塾」に通っていたこともあり、それから常務を中心に野池先生による住まいの省エネやパッシブデザインの講座に通うようになりました。
 私も昨年後半から、このブログで「大丸のリフォーム」をテーマに、事細かにリフォームの重要性を話してきました。少子高齢化が著しい日本社会のなかで、住宅市場の今後を展望すると、新築は減ることは明らかで、同時にこれまでのようなスクラップ&ビルド型の住宅産業でよいはずもありません。新築を建てる時は良質なストック住宅になるよう価値を高め、既存住宅の適切にメンテナンスしてストック市場を成熟させていかなければなりません。直近の未来でいえば、消費税率が10%になった時に、新築住宅への需要は明らかに冷え込むと思われます。
 今後ますます増えていくと思われるリフォーム需要に対して、その社会的役割や価値をどれだけ伝えられるか、工務店の力量が問われていると思います。

「1985リノベ学校2014」に通っています。

 大丸建設では今、常務(兄の安田博昭)が「1985リノベ学校2014」に通っています。先日、第1回目のアウトラインが終わり、今後は技術・実践編がスタートするので、私も参加していく予定です。
「1985リノベ学校2014」を主宰するのは「住まいと環境社」「自立循環型住宅研究会」「Forward to 1985」「パッシブソーラー協会」など、環境と住まいの政策提言やプロモーション活動で知られる野池政宏さん。リノベ学校では、「適切に既存住宅の寿命を延ばしつつ、その家が快適で省エネになる」リフォームやリノベーションについて考えていくことを目的にしています。1985という数字は、すでに高度経済成長を始めた日本で、まだ家庭でのエネルギー消費が抑えられていた1985年ごろの暮らしに戻していこうという意味で、現代の利便性を否定することなく、無理なく合理的な省エネを目指していくための現実的な目標を示しています。