第7回 建てたあとに、暮らしのなかで備える

耐震性の高い家に住んでいても、地震のときにけがをしない、というわけではありません。建物が倒れなくても、家具の転倒や物の落下によって被害を受ける事例は多くあります。だからこそ、建物の強さと合わせて、暮らしのなかでの備えも考えていただきたいところです。7月の地震で、この点をあらためて実感された方も多いのではないでしょうか。

住まいのなかで見直していただきたい点は、いくつかあります。背の高い家具は、必ず壁に固定します。寝室には、頭上に落ちてくる可能性のあるものを置きません。食器棚には、扉が勝手に開かないラッチをつけます。テレビや電子レンジのような重量物も、専用の耐震ジェルなどで固定しておくと安心です。窓ガラスには飛散防止フィルムを貼っておきます。これは台風の備えにもなります。いずれもホームセンターで購入するグッズで対策でき、大がかりな工事は必要ありません。

非常時の備えも、日常のなかで整えておきたいところです。飲料水、簡易なコンロ、懐中電灯、電池、常備薬、モバイルバッテリー、簡単な食料などを、家族の人数分そろえておくとよいでしょう。家族間で、地震のときにどこで落ち合うか、どのように連絡を取るかを、あらかじめ話し合っておくことも大切です。連絡手段については、災害用伝言ダイヤルなどの仕組みも合わせて確認しておくと安心です。避難所の場所も、地図で一度確かめておくと落ち着いて動けます。

耐震性の高い建物と、日常の備えは、車の両輪です。備えあれば憂いなし。防災の時期にこそ、しっかり考えていきましょう。

 

 

第5回 大丸建設は「耐震」の専門家です

地震に対する建物の考え方には、大きく分けて3つの方法があります。地震の力に直接抵抗する「耐震」、地面と建物の間に装置を挟んで揺れを伝わりにくくする「免震」、建物のなかに装置を組み込んで揺れを吸収する「制震」の3つです。

大丸建設では、住宅については「耐震」の考え方を採用しています。柱、梁、耐力壁、接合部といった構造そのものの強さで、地震の力に耐える構造です。装置を組み込むのではなく、建物自体で揺れを受け止める。私は耐震設計や耐震診断を強みにしており、設計、素材、施工、そのすべての段階で、地震の力にどう対抗するかを一つずつ考えています。

免震や制震には、それぞれ有効な場面があります。ただ、免震装置は基礎の下に組み込まれるため、あとから点検や交換をするのが容易ではありません。大規模な公共建築などでも、震災の際に免震装置そのものが損傷して、建物自体は残ったのに使用が制限された事例が報告されています。木造住宅の規模と予算を考えたとき、装置に頼る設計よりも、建物本体をしっかり組み立てるほうが、長い目で見て確実だと私自身は思っています。

耐震は、地味ですが、分かりやすく、人々の安心に直結します。強くつくり、正しく施工し、長く点検していく。この一連の流れは、大工職人や現場監督が長年かけて磨いてきた技術に、そのままつながっています。派手さはありませんが、住み手にとっても点検・補修の見通しが立てやすく、結果として安心につながる方針だと考えています。

 

 

第4回 熊本地震で確かめられたこと

熊本地震は、2016年の4月に、震度7の揺れが2度にわたって続いた、非常に厳しい地震でした。前震と本震が短い間隔で立て続けに起きた例は、それまでの震災には見られなかった特徴です。木造住宅にとっても、これまでの想定を超える負荷がかかった震災でした。

熊本地震で倒壊や大破が集中しているのは、1981年以前の旧耐震基準で建てられた住宅、および新耐震から2000年改正までのいわゆる過渡期の住宅です。2000年以降の基準で設計・施工された木造住宅では、2度の震度7に耐えて残った例が数多く報告されています。

もちろん、2000年以降の家であっても地盤の悪い場所で被害を受けた事例はあります。周辺の火災の影響を受けた住宅もありました。地震「だけ」による建物への被害と、火災、がけ崩れ、地盤の液状化といった二次的な被害は、切り分けて考える必要があります。

熊本の教訓から10年、熊本ではまた新たな地震に遭遇しました。熊本で確かめられた知見が、今回の7月の地震の分析にも、そのまま生かされていくことになると考えています。実際、復興ボランティアに行った方からは、10年前の教訓が生きているという声もありました。震災の分析は、次の家づくりの設計や施工に反映されていきます。地震という試練が来るたびに、私たちの家は少しずつ強くなってきたという事実は、ここ数十年の日本の住宅を語るうえで大切な視点だと考えています。

第3回 阪神・淡路大震災以降、変わってきたこと

1995年の阪神・淡路大震災は、日本の住宅の耐震に対する考え方を大きく変えた出来事でした。それまでにも耐震基準はありましたが、実際の被害の分析を通じて、どこがどう弱かったのかについて、多くの知見が積み重ねられていきました。

その後の震災、たとえば新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震、能登半島地震などにおいても、木造住宅の被害の傾向は、少しずつ明らかになってきています。倒壊した建物の多くは、旧耐震基準で建てられた古い住宅、あるいは新耐震と現行基準のあいだの過渡期に建てられた、いわゆるグレーゾーン住宅です。2000年の改正以降に建てられた木造住宅で、大規模な被害を受けた事例は、相対的に少ないという分析もあります。

地震そのものによる建物の被害は、阪神・淡路大震災以降、着実に減ってきていると言えます。もちろん例外はあります。断層の直上や、極端に地盤の弱い地域では、想定を超える揺れが生じることがあります。都市部では、地震そのものよりも、地震に伴う火災による延焼が大きな被害を生む場合もあります。津波や液状化、あるいは土砂災害のように、地震に付随する二次災害の影響も無視できません。

先の7月28日の地震についても、これから被害の傾向と、建物の年代や仕様との関係が丁寧に分析されていくことになります。私たち建築の現場にいる人間も、そこから得られる知見を注意深く受け取っていきたいと考えています。

第2回 建築基準法という「最低ライン」

耐震について話すとき、まず前提として理解しておいていただきたいのが、建築基準法の耐震規定です。この法律は、住宅を含むすべての建物が満たすべき性能の「最低ライン」を定めています。逆に言えば、この基準を満たしていない建物は、原則として建てることも売ることもできません。

現行の耐震基準は、大きく分けて二つの水準を求めています。一つは、震度5強程度の中規模地震で、大きな損傷を受けないこと。もう一つは、震度6強から震度7に至るような大規模地震でも倒壊・崩壊しないことです。倒れないことを求めるだけでなく、地震のあとに人命の安全が確保されることまでが含まれています。

この基準は、大きな地震があるたびに見直されてきました。1981年の改正で、いわゆる「新耐震基準」が導入されました。木造住宅については、2000年にさらに改正が加わり、接合部の金物の仕様、地盤に応じた基礎の設計、耐力壁のバランスの確認などが強化されています。1981年〜2000年に建てられた建物は「グレーゾーン」とも言われています。

同じ木造住宅であっても、いつ建てられたかによって耐震性能に差があります。ご自宅がいつのどの基準で建てられているのかを把握することが、耐震を考える最初の一歩になります。築年数がおおよそのめやすになりますが、詳細な確認が必要な場合には、専門家による耐震診断という方法もあります。自治体によっては、診断や改修に対する補助制度が用意されている場合もあります。

第1回_2026年の地震を経て、改めて考える耐震

9月は、日本にとって防災を意識する月です。今年は、2016年4月に発生した熊本地震から10年という節目にあたる年でもあります。私自身、11月には建築関係者の研修という形で、熊本の被災地を訪ねる予定でした。

そのなかで、7月28日、熊本県内で大きな揺れをもたらす地震がふたたび発生しました。被害を受けられた地域のみなさまには、心よりお見舞いを申し上げます。まだ調査や復旧の途上にあり、詳細な被害の分析はこれからの段階ですが、10年前の熊本、さらにその前の阪神・淡路大震災や東日本大震災の経験が、こうした場面での判断や動き方に、確実に生かされていると感じています。

建築の仕事を長く続けていると、地震はいつかまた必ず来るもの、という前提で日々の設計や現場に向き合う癖がつきます。日本という国に住む以上、これは避けようのない前提だと考えています。

一方で、そのことを必要以上に恐れる必要はないとも考えています。過去の震災の反省を踏まえて改正されてきた建築基準法のもとで、きちんと設計・施工された木造住宅は、地震に対して十分に耐える力を持っています。この点は、阪神・淡路大震災以降の被害分析でも、熊本地震の被災データでも、繰り返し確認されてきました。

地震を正しく恐れ、しかし恐れすぎずに正しく備える。そんな秘訣をお話しします。

第8回 自然素材の家づくりが求められる時代へ

住まいの価値が変化している今、住宅の性能や耐久性だけでなく、「素材」そのものが生活の質に与える影響が注目されています。とくに環境や健康への意識が高まる中で、自然素材を使った住宅のニーズは依然として高いと感じています。

自然素材は単なる装飾ではありません。木材の調湿性、脱炭素といった環境側面、そして肌にふれたときの感触や香りが、暮らしに豊かさをもたらします。

都市部と比べて空気や緑の近い多摩の暮らしだからこそ、自然素材の家は理にかなった選択肢として受け入れられやすいと感じています。植栽を含めた敷地全体の環境づくりや、木材の調湿性・断熱性は、四季の変化が大きい日本でこそ、その心地よさが大きな価値になるのではないでしょうか。大丸建設は、地域の気候や暮らし方を踏まえた自然素材住宅を、これからも誠実にお届けしていきたいと思っています。

木の表情(8)) 「木づかい」に長けた工務店として

年の瀬になり、日ごとに冷えが深まるなか、今年つくった家のことを思い返しています。どの現場でも、私たちは木と対話し、木を読み、木を生かすことに努めてきました。設計者の意図を汲みつつも、現場でどの木をどう使うのかは、工務店や大工の采配に任されます。誇りをもって木に向き合ってきたこと、これは年が変わっても不変の大丸建設の姿勢です。

 

木にはそれぞれ“顔”があります。年輪の詰まり、白身と赤身、木表と木裏、節の有無、樹種による特性。これらはすべて「この木がどんな木か」を語るサインであり、同時に「この木をどう使うか」を決める判断材料になります。

家をつくるというのは、単に木を並べることではありません。構造、安全、快適性、コスト、将来のメンテナンス……。それらを見据えて、「どの木を、どこに、どんな工程で使うか」を采配するのが工務店の責任です。

私たち大丸建設は、明治初期からの160年の歴史とともに、多くの木と向き合ってきました。紀州・山長商店をはじめとした全国の産地から直接取り寄せる杉。檜やヒバ、広葉樹を使うこともあります。

一本一本の木の声に耳を澄ませ、その木が一番生きる形で、住まいをつくる。それが、私たちの誇りであり、責務です。

木の表情を読み切る——それは単なる技術ではなく、木を敬い、木に応える姿勢です。
来る年も、この姿勢を変えることなく、一つひとつの家と、向き合ってまいります。

本年もお世話になりありがとうございました。良いお年をお迎えください。

木の表情(7) 針葉樹と広葉樹を適材適所で使い分ける

木には大きく分けて「針葉樹」と「広葉樹」があります。住宅建築で使う場合、この分類がとても重要です。

針葉樹は生長が比較的早く、幹がまっすぐ伸びやすいため、構造材に適した木が多い傾向があります。杉や檜に代表される針葉樹は、軽く、しなやかで、加工性が良く、さらに断熱・調湿性にも優れています。構造材や壁・床・天井、造作など、多用途に使いやすいのが特徴です。

一方、広葉樹は生長がゆっくりで、木の繊維が詰まり、密度が高く、硬く重いのが特長です。例えば、ナラやケヤキなどは、その強度と重さ、耐摩耗性から、家具材や床板、高級な造作材として重宝されてきました。

このように、木の性質は“用途”によって異なります。構造や内装を担うなら針葉樹、日常の生活で触れる家具や床など摩耗性の高い箇所に使うならば広葉樹。そうした適材適所の使い分けが、快適で長く住める家をつくるためには不可欠です。

もちろん、コストや入手性、メンテナンス性も考慮しなければなりません。広葉樹は良材であっても高価なことが多く、重いため扱いや施工が難しくなる場合もあります。だからこそ、“木の性質を知る”こと。そして“使い分けの判断”ができることが、工務店が持つべき力だと思います。

 

木の表情(6) 日本の木造を支えてきた「杉」と「檜」

日本の木造住宅、そして数百年にわたる建築の歴史のなかで、職人たちに愛され、建築用材として多用されてきたのが「杉」と「檜」です。この二つの材には、「似て非なる特性」があります。

杉は、軽くて加工しやすく、調湿性や断熱性に優れる木です。木材としての比重が軽く、内部には無数の微細な空隙があり、その空気が熱を通しにくくすることで「冬は冷えにくく、夏は涼しい」という住み心地をつくります。また、杉は生長が早く、伐採後の供給量も安定しやすいため、住宅建材として入手しやすいという実利的なメリットもあります。

対する檜は、杉と比べると密度が高く、重くて硬いとされています。それでも杉と同じく針葉樹なので、広葉樹に比べれば入手しやすく、加工性にも優れています。古くから、寺社建築や重要な構造材に檜が多く使われてきたのは、この重さと耐久性、防腐・防虫性が評価されてきたからにほかなりません。

つまり、杉と檜は「どちらが優れているか」ではなく、用途や設計、価格のバランス、入手しやすさなどで、価値が変わります。たとえば、構造の要になる土台や柱には檜、室内の床や造作、壁材には杉――といったように、適材適所で使い分けていくのがよいでしょう。