日常生活でも化学物質対策を

ここまで見てきたように、化学物質過敏症と言っても反応も軽度なものから寝込んでしまうくらいのもの、精神的にも不安や不調をきたしてしまう場合など、本当に人それぞれです。私にも花粉症がありますし、ヒバの香りをかぐと喉が痛くなります。誰がなってもおかしくないし、今は平気でもある時突然かかってしまう可能性もあります。

建材だけでなく、例えばホームセンターの家具売り場や、車のディーラーでの新車の匂いなども、人によっては反応が出やすい場所の一つです。何か違和感を覚えたら、なるべくその場から立ち去る方がいいと言えます。現在社会問題にもなっている「香害」では、洗濯用の柔軟剤への反応が多いです。近隣の洗濯物の香りや、学校で使い回す給食着、あるいは電車で隣に座った人の香料でも、人によっては反応が出ることもあるんだ、という認識を持つことが大切です。

誰もが異なる「化学物質を許容するコップ」を持っていて、その水があふれた瞬間につらい症状に悩まされる可能性がある、ということに想像力を持つことで、思いやりをもった選択ができるようになることが望まれます。

 

化学物質過敏症のお客様に接する時に気をつけていること

化学物質過敏症の方は、精神的なストレスを抱えることが多くあります。現代はさまざまな化学物質に囲まれ、ご自身がどんなに気をつけていても、思いがけずに化学物質にふれざるをえず、反応してしまうことがあります。例えば、ご家庭では香料のない洗剤で洗濯をしていても、ご近所の方が使った柔軟剤の香りが風にのってきてそれに反応してしまう、というように、ご本人の責任ではないのに苦しみを抱えてしまうことがあります。

大丸建設で化学物質過敏症のお客様と接する時に大切にしているのは、その方が症状に悩み苦しんできた方であるということを理解し、尊重しながらヒアリングを進めていくことです。一人ひとりが異なる症状や悩みをお持ちなので、「素直に、率直に、思ったことを言ってください」とお伝えします。建材のテストでは、ちょっとでも無理をすると後から困ったことになるので、起きた症状を素直に教えていただくようにします。「決して無理をしないこと」「ゆとりをもってテストを行っていくこと」。これを大切にし、双方ともに心にゆとりを持って向き合えるように心がけています。

 

化学物質過敏症対策のコスト

化学物質過敏症対応の住宅の場合、コストはどれくらい変わるのでしょうか。これは一概には言えず、どういう材料を使うのかによって大幅に変わります。一つ言えるのは、すべてオーダーメイドで対応しなければならない、ということです。

大丸建設の場合、杉材が大丈夫であれば、それほど金額は大きく変わらないという実績があります。例えば床材でベニヤ(合板)がダメな方でも、根太や捨て張りといった施工の対策によって、自然素材だけでも対応できますので、若干割高になってもそこまで大幅なコストアップにならずに済むこともあります。しかし一度施工した後に、やっぱりダメで、また施工をし直すとなると、コストがかさんでしまいます。

杉材やヒノキ材を使えない方の場合は、材料探しが大変になります。今まで手がけたケースでは、モミの木ならば大丈夫ということで対応したことがありますが、一般的な住宅用材ではないため高いコストがかかってしまいました。

人によっては、機械乾燥の材はダメで自然乾燥ならば大丈夫、同じ木を二つに割って片方は大丈夫で片方はダメ、ということもあり、ていねいに根気よく確認、テストしていくことが大切です。

 

 

大丸建設でおこなう建材テスト

化学物質過敏症のお客様の住まいを建てる時には、通常の建築よりも時間をかけて行います。何に時間をかけるのかというと、建材の「テスト」です。だいたい3カ月から半年くらいは建材のテストに時間をかけます。

建材のテストでは、お客様に使用部材をあらかじめお渡しして、何日か一緒に過ごしてもらう、ということをやります。大丸建設の住まいでは杉を多く使うので、杉が大丈夫かどうかのテストには時間をかけます。

まずは杉の匂いを嗅いでいただきます。その瞬間に「ダメ」と感じる場合もあれば、時間が経ってから嗅いだ時には大丈夫なこともあります。大丈夫であれば、寝室の布団の横に杉材を置いてもらい、一晩寝てもらう。翌朝何の症状も出ていないかをヒアリングします。一週間、一カ月、3カ月と、テスト期間を延ばしていって、大丈夫だったら杉材は使えると判断します。同じように、クロスやサッシ材などについてもきめ細やかにテストを行います。

杉材が使えない場合は、ヒノキや、あるいは広葉樹に材を変えてテストします。テストで出る症状はそれぞれですが、喉が痛くなる、頭が痛くなる、目がチカチカする、耳鳴りがする、ひどい場合は寝込んでしまうなど、症状にも軽重があるので、無理しないように慎重に進めていきます。

自然由来のものでも発症することがある

有害化学物質というと、接着剤や香料などの工業製品のイメージがあります。しかし、何が「有害」かというと、化学物質そのものというよりも、その物質に反応をする人にとっての有害な成分、と捉えるとよいと思います。自然由来のものでも、あらゆる成分は化学物質なのです。

自然由来の香り成分でも、人によっては症状を発症することがあります。例えば、スギ材にはアセトアルデヒドが含まれており、それに反応する人もいます。ヒバに多く含まれるヒノキチオールは、一般的には好まれる香りとは言われていますが、ヒノキチオールが苦手な方も一定数います。私もその一人で、建築中にヒバ材を使ったり、シロアリ防蟻のためにヒバ油を使うと、喉が痛くなってしまいます。

自然由来のものだからすべてが安心・安全というわけではなく、それに反応してしまう人もいるということを理解したうえで、建材を選んでいくことが大切です。人それぞれ、化学物質に対する反応が異なることを理解し、違いを尊重していく姿勢が求められます。

 

住宅建材で気をつけたい室内の環境

住宅建材で化学物質過敏症の主な原因物質とされていたのは、合板の接着剤に使われていたホルムアルデヒドです。揮発性(空気中に拡散する性質)の成分があると、目がチカチカしたり鼻がツンします。呼吸によって揮発性の有害化学物質を吸い込むことで、人によっては化学物質過敏症を発症してしまうことがあります。

現在の建築現場で気をつけたいのは、室内側に出ていくものの中では、構造材のスギ・ヒノキ。自然由来のものでも敏感な方は反応することがあります。また、ベニヤ、下地材、仕上げの床材、階段材、ドア枠、窓枠などにも気を配ります。お客様に症状がある場合は、幅木、廻り縁などにも反応しないかテストします。壁材でも、ビニールクロスの接着成分が苦手な方、ペンキなどの塗料で反応する方、左官材も自然由来の珪藻土、漆喰、貝灰など、いろんなものがあるので、お客様との相性に合わせて選んでいきます。

室内に比べて屋外はそれほど神経質になる必要はありませんが、例えば以前問題になったシロアリの殺虫剤は、現在はより毒性が弱いものに切り替わっています。10年保証から5年保証に変わり、細かい点検によってシロアリ予防をしています。大丸建設ではヒバ油を使っていますが、ヒバの香り成分が苦手な方もいるので、その場合は別の防蟻材を使うなど、調整しています。

人によって化学物質の許容量が異なる

どんな人が化学物質過敏症になるのでしょうか。これは人によってさまざまです。同じ家に住んでいても何も発症しない人もいれば、化学物質によって苦しむ人もいます。大切なのは、症状がある人に合わせて家族全員で対策をしていくことです。例えばアトピー性皮膚炎や何らかのアレルギー症状を持つ方、赤ちゃんがいる家庭は、なるべく化学物質が多いものを使わない方がいいと言えます。

人によって化学物質の許容範囲は異なりますが、一定の量を超えて化学物質を摂取すると、コップの水があふれ出るように何らかの症状を発症してしまうことがあります。小さな子がいる家庭で特に気をつける方がいいというのは、体が小さい赤ちゃんや子どもほど、コップの大きさが小さいと言えるからです。

一つ例を挙げるならば、花粉症です。それまでは何ともなかったのに、ある年を境に急に発症し、その後ずっと花粉症に苦しんでしまう、といった具合です。私も花粉症持ちですが、地方の山林では症状が出ないのに、東京に戻ってきた瞬間にくしゃみが止まらなくなってしまったことがあります。花粉だけではなく、東京の大気や車の排気ガスなど花粉が反応することによって、私に症状が出てしまっているのかもしれません。

化学物質過敏症ってどんな症状?

大丸建設では、化学物質過敏症(Chemical Sensitivity)のお客様に対応した家づくりを行うことができます。「チルチンびと『地域主義工務店』の会」を立ち上げた2003年は、建築基準法の改正、いわゆる「シックハウス法」によって、住宅建材に含まれる化学物質の規制が始まった年でもあります。この頃、シックハウスが社会問題化し、官民あげて対策に取り組んできました。大丸建設も一生懸命にシックハウス対策について学び、出来うる限りの対策をとってきました。

 

シックハウス症候群を含む化学物質過敏症は、生活環境の中で化学物質に接することで、頭痛やめまい、疲労感、皮膚疾患や、目や鼻の症状といった、多様な不定愁訴を発する症候群のことです。その原因はさまざまですが、例えば化粧品やシャンプーなどの生活雑貨、洗剤や柔軟剤に含まれる香料、殺虫剤や消臭スプレー、そして住宅建材に含まれる化学物質などが挙げられます。

かつて住宅建材で問題になったのは、合板・ベニヤの接着剤に含まれていたホルムアルデヒドや、シロアリ防蟻剤のクロルピリホスといった化学物質です。現在は使用が規制されていますが、別の化学物質や自然由来の香り成分でも体調を崩す方がいることがわかってきました。