物価高騰_ 8 正直に、誠実に

今月は住宅建築にかかる価格の話を、物価高騰の側面からお伝えしてきました。

大丸建設の社員も一人ひとりが生活をしており、食品、ガソリン、運賃、教育費等、暮らしにかかるあらゆるコストの増大の影響を受けています。建築の価格上昇について、なるべくお客さまの負担を軽減できるような提案をしたいとも考えていますが、価格ばかりに目が向いて品質が低下してしまうようなことは避けたく、必要なコストには相応の価格で対応しないと、結果的にそれを支える全ての産業の人や環境に影響してしまうのも事実です。

長い目で見て、日本の住宅産業やものづくりの技術が受け継がれ、また技術革新していくためには、働く人も幸せである必要があります。こうした中長期的な視野を持ちながら、工務店側もお客さま側も相互に理解し、価格に対する納得感を持って工事を進められるよう、正直に、誠実に、コストの現状についてお伝えしていかなければならないと考えています。

 

物価高騰_7 間接経費の圧縮には限界

建築にかかるコストについては、一つひとつに根拠があります。材料、輸送、人件費等の直接経費と、全体をコーディネートする工務店の施工管理費や営業費等を含む間接経費です。価格を圧縮する時には、工務店側の利益である施工管理費を調整して見積もりをご提示しますが、これがなくなると、工務店はつぶれてしまいます。工務店は事務所を構え、お客様の建築図面の膨大な資料を保管し、資材や建材の置き場を確保し、経理・事務や、営業・接客等を担当するスタッフも必要です。

こうしたバックオフィス機能が必要になるのは、私たちは新築のお客さまだけに対応しているわけではなく、家を建てて5年、10年、何十年と経ったOBのお客さまのハウスドクターとして、家の修繕が必要になった際のメンテナンスやリフォーム等に対応していく必要があるからです。新築のお客様に対しても、過去に対応したお客さまの事例等からデザインや価格調整のアドバイスをしていくこともあり、過去のデータベースを保管しておくことは大切です。

こうした間接経費の必要性にもご理解をいただきたく、お願いします。

物価高騰_6 物価高騰は建築価格に反映する

ここまで見てきたように、住宅建築にかかるコストは増大しています。

◇エネルギー価格の高騰→輸送コストや建築時にかかるエネルギーコスト、あらゆる建材の製造コストに影響

◇木材価格の上昇→住宅建設の基礎材料価格の上昇

◇輸送コストの上昇→建築資材の配送や、建築時の移動にかかるコストの上昇

◇人件費の上昇→職人等への外注工賃、雇用スタッフの給与の上昇

すべてが20%〜50%ほどの値上げ幅で動いているため、建築価格が据え置きのままですと、工務店は破綻してしまいます。そのため、見積もりで価格が上昇することが心苦しくありながらも、建築後の数十年間メンテナンスを続けていくことを考えると、我々が破綻するわけにはいきませんので、お客様にご理解いただけるよう、説明を尽くしていきたいと考えます。

 

物価高騰_5 人件費の上昇

もう一つ、建築費の高騰の背景には、人件費の上昇があります。時間当たりの最低賃金の上昇は、労働者の権利向上のうえでは大切なことではありますが、一方で価格転嫁に直結するので、お客さまへの影響が出てしまう部分でもあります。

東京都の2013年の最低賃金は時給にして869円でした。2019年に1,013円になり1,000円超えしたと思ったら、2023年には1,113円と、毎年2%以上の伸び率です。人件費はこの10年間で3割アップしています。

また、職人さんの工賃は「外注工賃」となり、会社で抱える直接人件費ではありませんが、大工や左官、とび職、鉄筋コンクリートや基礎の型枠職人などの人的工数も職種によって異なれども、10〜30%ほどの幅で上昇しています。

人に関わるコストが2〜3割は上昇していることを考えると、建築に関わるコストもそれに追随していかざる得ないのは、致し方ないことなのです。

 

物価高騰_4 輸送コストの上昇

輸送コストも大幅上昇したうちの一つです。レギュラーガソリンの価格は現在、1リットル160円台だと安く感じるくらいで、一時期には180円台に突入したこともあります。

ガソリンの価格は国際情勢に大きく影響されるため、乱高下がありますが、10年前と比較すると上昇ケースにあると言えます。総務省の統計によると、レギュラーガソリン1リットルあたりの価格は1年間(12カ月)価格の平均で、2013年は153円だったのが2023年には170円となっています。ただし、この間、2016年は118円と大きく下がっている時期もあります。

ガソリン代が変動する原因は、原油価格や為替の動きなど、各国の税制や禁輸措置など国際情勢の変動要素が大きいことで、コロコロと値段が変わってしまいます。国内情勢では、需要と供給バランスの崩れ、平日とホリデーシーズンなどの利用シーンの変化なども原因の一つになります。

ただし、工務店経営の視点でいけば、日々の価格変動よりも、中長期的な変化を見て影響を予測する必要があります。

物価高騰_3 10年で2割ほどの物価上昇

実際に建築工事費の物価高騰はどのくらいの割合なのでしょうか。この10年ほど、東京オリンピックの影響で建築資材不足、人手不足などがささやかれていましたが、国交相の発表資料によると、建設工事費用は2013年以降の10年間で1.2倍ほどに膨れ上がっているとのことです。

コロナ禍が追い打ちをかけ、ウッドショックやアイアンショックなどが続いて建築資材費が高騰したのと同時に、建築にかかる人件費や輸送コストも大幅に上昇しています。

輸送コストの影響も大きいです。工務店の仕事は車がなければ成り立たないので、ガソリン価格の変動は、日々の営業や打ち合わせ、現場監督業務での移動コストに直結します。また、木材の配送や建材の配送にも影響は大きく、特に細々とした資材は宅配業者の価格設定の影響を受けるので、「運送業の2024年問題」の影響は深刻になるのではないかと今から心配しています。

物価高騰_2 かなり厳しい物価高

建築業界の物価高は、今に始まったことではありません。コロナ禍の2020年に、DIY市場のある北米でDIYブームが起こり、木材や建材が品薄になりました。その余波で2020年後半から2021年にかけて「ウッドショック」が起こり、木材が手に入らない、価格が高騰するといった状況が続いています。

続いて2021年には「アイアンショック」も起こりました。鉄筋や鉄骨といった、住宅の基礎には欠かせない鋼材の価格が高騰し、入手しにくくなったことから、工期遅れなども生じました。大丸建設は木造建築なので、アイアンショックの影響は限定的ではありましたが、それでも資材の価格上昇は如実に影響しています。

木材、鋼材だけでなく、原油価格の上昇から、クロスや断熱材、窓サッシ等のあらゆる建材が価格上昇の影響を受けています。それゆえに、工務店が資材の発注等でかかる見積もりも上昇し、お客様にもご負担をお願いするものの、あまりに価格の上昇幅が大きいため、工務店側でも利益を削っているのも事実です。

物価高騰_1 住宅業界にも物価高騰の波が

近年、家庭に物価高騰の波が押し寄せています。近年はエネルギー価格が高騰し、一時的に電気代が何倍にもふくれあがった家庭があったり、ガソリンの価格は高止まりのままです。家庭の光熱水費の影響は生活に直結し、ご苦労された家庭も多かったのではないでしょうか。

生活必需品の値上げも深刻です。円安の影響もあり、昨年は9000品目が一斉に値上げ、とか、食品でも値上げかつ袋の中に入っている量がとても少なくなったり、ニュースではスーパーマーケットでため息をつく生活者の姿がたびたび取り上げられました。原油価格、資料価格、包装資材、運送費、すべてが値上がりしたので、社会全体が物価高に苦しんでいる状態です。

建築業界も他人事ではありません。物価高騰の波が押し寄せ、会社の努力だけで吸収するのは難しい状況になってきました。今月は住宅業界の物価高についてお話しします。