日本の人口と住宅産業のこれから_6 孤独死対策

「2025年問題」という言葉を聞いたことはありますか? 戦後に生まれたいわゆる「団塊の世代」が全員75歳以上の後期高齢者になるのが2025年なのです。認知症高齢者や年間死亡者数の増加、高齢者単身世帯の増加などによって、社会構造が大きく変わり、必要とされる福祉サービスも大きな変化を余儀なくされます。

介護・医療難民が増え、介護施設に入れない高齢者が自宅で暮らすことを余儀なくされ、徘徊や孤独死が増えることが予想されており、すでに墓地や葬儀場、火葬場が足りないという実態もあります。

特に孤独死は近隣住民にとっても大きな影響があります。死後の発見が遅くなるほど、悪臭や衛生面などの具体的影響が出てしまい、特に集合住宅の場合は物件価値にも影響します。

高齢者の独居は家族関係の変化など、どうすることもできない面もありますが、例えば地域の見守りあいがあるだけで福祉サービスとの適切な連携が可能になりますし、IoTによる見守りシステムなどによっても高齢者の孤立を防ぐことができます。

いずれにしてもこうした高齢者福祉を支えるには財源が必要です。自治体の税収が減るなかで、どのような対策が最も有効なのか、これは個人の問題ではなく社会全体で考えていく必要があります。

日本の人口と住宅産業のこれから_5 住宅への影響

少子高齢化は経済や社会保障への影響が甚大であることは前回述べた通りですが、住宅問題としても大きくクローズアップされています。直近の課題は「空き家」問題です。

地方に行くと朽ち果てた空き家が点在している姿を目にすると思います。実は首都圏でも例外ではなく、郊外住宅地での空き家は確実に増えています。現在、日本では800万戸以上の空き家があるとされ、民間シンクタンクの調査によると、今から10年後の2033年には30%もの住宅が空き家になると予測されています。

空き家が増えるのは、住民の高齢化によって老人施設への転居や、死去に伴い住まい手がいなくなるからです。家族が同居していれば空き家になることを回避できますが、多くの場合は他の地域に移動して、その家を維持するために戻ることはないため、そのまま放置してしまうといったケースが見られます。

空き家の問題は、日常的な管理が行き届かずにその土地や建物が荒廃してしまい、景観への影響や、防犯の不安などが挙げられます。盗難や犯罪の温床になることもあり、自治体の中には空き家対策を優先課題とうるところもあります。

日本の人口と住宅産業のこれから_4 少子高齢化の何が問題なのか

実際に、少子高齢化は何が問題なのでしょうか。いくつかの影響があるので、簡単に説明しましょう。

人口を大きく分けると、年少人口(0〜15歳未満)、生産年齢人口(15〜64歳)、老年人口(65歳以上)の3つがあります。まず挙げられるのが、経済への影響です。生産年齢人口が減少すると、日本の経済を牽引する力が弱体化します。また、少ない生産年齢人口が労働不足を補うために長時間労働を強いられ、ますます少子化が進行してしまう負のスパイラルが起こっています。

生産年齢人口が減ると、自治体にとっては住民税の税収が減り、医療や介護、教育、保育などの社会的なサービスを満足に提供できなくなる恐れがあります。高齢者福祉に不可欠な医療や介護の施設が足りなくなり、そこで働く人が十分に確保できなくなる可能性も指摘されています。高齢化による社会保障費の増大は避けられず、必要な社会保障の維持のために、社会保険料の値上げや医療費負担増、また現役世代の得られる年金額の低下などが待っています。

日本の人口と住宅産業のこれから_3 1.57ショック

 

少子高齢化が日本の大きな課題として広く認識されるようになったのは、人口減少時代に突入した2000年台に入ってから。合計特殊出生率(1人の女性が生涯に出産する人数)が2.0を下回った国は総人口を保つことが難しくなるとされています。

平成元年(1989年)の合計特殊出生率が1.57になった時に「1.57ショック」という言葉が生まれました。それまで日本の合計特殊出生率が過去最低だったのは1966年(丙午の年)の1.58で、その数字を下回ることはまずないと考えられていたからでした。

ちなみに、丙午(ひのえうま)とは、60種類ある干支の一つで、「丙午生まれの女性は夫を食い殺す」という迷信があったことから、人口ピラミッドを見ると丙午にあたる1966年の出生率がガクッと減っているのです。もちろんそれは迷信ですが、3年後の2026年に60年ぶりの丙午がやってくるので、その時の出生率がどうなるか今から注目が集まっています。

ちなみに最新の合計特殊出生率は1.30。過去最低レベルを推移しており、政府や各自治体が打ち出す「少子化対策」や「子育て支援」がどのように効果を及ぼすのかの方に注目すべきでしょう。

日本の人口と住宅産業のこれから_2 人口減の現実

新築住宅の着工棟数の減少が始まったのは2009年で、前年のリーマンショックによる景気減衰の影響が大きいとされています(2008年度は108万戸→2009年度は77万戸)。その後は80〜90万戸の間で推移していますが、一方で人口減少の影響も確実にあると言えそうです。

日本の総人口が減少に転じたのは2008年のことです。1億2808万人をピークに、その減少幅は2020年代に入ってより大きくなっています。その原因として、非婚化・晩婚化やそれに付随する出生率の低下が挙げられ、少子高齢化が猛烈な勢いで進んでいます。高齢化の要因としては医療技術の進歩や生活環境の改善から平均寿命が長くなり、死亡率が低下しているためで、それ自体はよいことではありますが、一方で高齢者の福祉や医療を支えるための財源が圧迫しています。

政府が近頃「異次元の少子化対策」を打ち出しましたが、経済、社会、税制など多方面において深刻な影響を与えている少子高齢化について、もう少し詳しく紐解いてみたいと思います。

 

日本の人口と住宅産業のこれから_1 新築着工棟数の変化

日本の人口減少は2008年に始まりました。少子高齢化が日本の大きな課題となり、政府は「異次元の少子化対策」を打ち出し、住宅産業界でも「こどもみらい住宅支援事業」や、自治体による子育て応援マンションや賃貸住宅、ハウスメーカー各社も「子育てしやすい住まい」の提案が盛んです。

人口が減少すると、当然ながら住宅産業も打撃を受けます。新築住宅の年間着工棟数は1990年台までは年間120〜140万戸で推移していましたが、2009年に100万戸を下回って以来、減少の一途を辿っています。民間シンクタンクの調査によると、2025年度には80万戸、2040年度には50万戸を下回ると推計されており、住宅産業としても新築偏重のビジネスモデルは今後持続可能でなくなっていく可能性があります。

今月は人口減少と住宅産業のこれからについてお話しします。