性能だけでない住宅の価値

2020年に改正省エネ基準(2013年基準)が義務化されることは、これまで世界に比べて遅きに失した感のある日本の住宅の省エネ性能を高めていくうえで、大変に意味のある施策だと思います。

 

一方で、私たち大丸建設が大切にしている自然素材やシックハウス対策についての関心が薄れることも懸念されます。シックハウス法が制定された2003年ごろは、住宅建材に含まれる化学物質に対する関心が高まりましたが、その後創エネや高断熱のブームがきてからは、自然素材が話題にのぼることが少なくなりました。自然素材自体が持つ断熱性能や調湿機能について、もっと研究や評価が進むことを願っています。

住宅は一つの性能や機能だけではかるものではなく、空気の心地良さや住んでいる人の快適性など、総合的に考え、感じるものです。法令順守と基準適合はきっちりおこないつつも、それだけで評価されない住まい手の思いや心地良さを伝えていくべく、大丸建設では誠実に住まいづくりをおこなっていきます。

時代に先駆けて知識と技術を習得

こうした国の動きを受け、大手ハウスメーカーではZEHや改正省エネ基準への対応を進めています。一方で、中小の工務店の場合、国の動きへの対応が遅れる傾向にあり、現時点でも1999年次世代省エネ基準に適合した住宅を建てられる技術を持たないところもあると危ぶまれています。2020年には新築住宅への改正省エネ基準の適合が義務化されるので、断熱や省エネについての知識と技術を持たない地域工務店は淘汰されてしまいます。

私たち大丸建設は、全国的な地域工務店組織に複数加盟しているため、こうした国の情報についてはいち早く取得でき、基準に対応できるよう研修や資格取得などを先行して進めています。改正省エネ基準では、建物の断熱性能だけでなく、設備機器のエネルギー性能を含めて設計することが求められているため、暮らし全体的に対する総合的な技術と知識が求められます。

2020年にはZEH(ゼッチ)が標準に

また、政府は住宅の省エネ化を進めるにあたり、2013年改正省エネ基準の2020年における義務化と、「ZEH」の標準化を進めようとしています。ZEH(ゼッチ)とは、ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略で、建物で生産するエネルギー量と消費するエネルギー量が差し引きで概ねゼロになる住宅のことで、省エネ性能が高く、さらに太陽光発電などで創エネしており、エネルギーを需給自足できる家と言い換えることもできます。

政府は、2020年の標準的な新築住宅でのZEHを実現することを目標にしています。ただし新築住宅での省エネは義務化されますが、創エネについては義務ではないので、ZEHの標準化に向けては住宅を建てる方の創エネへの意欲が重要になってきます。

二つの基準の算出方法

住宅の一次エネルギー消費量を計算するには、建物の冷暖房や給湯、設備機器にかかるエネルギーの消費量の合計を算出し、そこから床面積に応じて設定された標準的な一次エネルギー消費量を計算します。新築住宅の設計時の一次エネルギー消費量が、国の改正省エネ基準による一次エネルギー量より低いことが、2020年より義務化されます。

 

また、日本全国を8つの地域区分に分け、地域ごとに建物外皮の断熱方法も算出しなければなりません。これまでQ値(熱損失係数)で示されてきたものは、UA値(外皮平均熱貫流率)に変わり、建物が損失する熱量を外皮等の面積で割って計算します。μ値(夏季日射取得係数)は(冷房機平均日射熱取得率)となり、建物が取得する日射量を外皮等面積で割って計算します。

この「一次エネルギー消費量」と「外皮の省エネ性能」の二つの基準を守ることが、2020年より義務化されるのです。

一次エネルギー消費量とは

改正省エネ基準では、建物外皮の断熱性能に加え、一次エネルギー消費量についても評価されます。

そもそも、一次エネルギー消費量とは、どのようなものでしょう。

まず、一次エネルギーとは、水力、風力、太陽光など、自然エネルギーと、石炭や石油など、自然から得られるエネルギーそのもののことを指します。一方で、ガソリンや電気として使いやすく加工されたものを二次エネルギーと言います。

一次エネルギー消費量とは、建物で使われる冷暖房、給湯、照明、換気設備、家電などの設備機器に使われるエネルギーを、一次エネルギーの熱量に換算したものを言います。ガソリンや電気のような二次エネルギーの場合、m3やkWといったそれぞれのエネルギーによって単位が異なりますが、一次エネルギー消費量の場合は「熱量(GJ(ギガジュール)」という単位で表現します。

 

建物の外皮だけでなく一次エネルギー消費量も判断軸に

1999年に定められた次世代省エネ基準は、建物の開口部(窓やドア)や壁などの断熱性能で判断していました。日本を北海道、東北や長野などの寒冷地、南東北や北関東地方、首都圏などのやや温暖な地域、東海・近畿などの温暖な地域、九州や沖縄などの暑い地域と6区分にわけて、地域ごとに目安にすべき建物の外皮性能が示されていました。

次世代省エネ基準では、延床面積に対して建物(外皮)から逃げる熱量を「Q値(熱損失係数)」、同じく延床面積に対して建物に侵入する日射量を「μ値(夏季日射取得係数)」として評価します。

 

2013年の改正省エネ基準では、計算方式を変え、建物外皮の断熱性能に加えて、「一次エネルギー消費量」も判断の基準に加えられることになりました。

住宅の省エネ基準の変遷

日本の住宅の省エネ基準は、欧米各国に比べると遅れていると言いましたが、これまでに基準がなかったわけではありません。日本の省エネ基準は1980年に初めて決められ、その後何度かの改定を経て、1999年に定められたのが「次世代省エネルギー基準」です。

「本当にすごいエコ住宅をつくる方法 最新版」野池政宏・米谷良章 より

さらに東日本大震災を経て、暮らしに関わるエネルギーについて考える機運が市民の側にも立ち上がりました。こうした世論を受け、2013年には国の「エネルギー基本政策」が改定され、同年、省エネ基準についても「改正省エネ基準」が導入されました。1999年の省エネ基準は義務ではなく目安でしたが、2013年省エネ基準には、2020年までにすべての新築住宅・建築物で守ることが義務化されることになり、これは住宅業界にとっては画期的なことと言えます。

2020年、新築住宅の省エネ基準が義務化されます

地球温暖化やエネルギーの枯渇といった環境問題が深刻になり、世界全体でエネルギーの使用量を減らすために、各国で積極的な省エネルギー対策が進められています。日本は資源に乏しくエネルギー源のほとんどを輸入に頼っています。そんな日本がエネルギーで世界に貢献できるのは、省エネ技術です。これまで家電のエネルギー効率は世界トップクラスで世界をリードしてきましたが、住宅の省エネルギーについては対策が進んでおらず、欧米と比較しても建物の断熱基準は低く世界のトレンドから取り残されてきた感があります。

 

2013年に国のエネルギー政策の方向性を示した新しい「エネルギー基本計画」が発表されました。そこには、地球温暖化の原因物質とされる二酸化炭素(CO2)の排出量を削減するために、家庭部門の省エネルギーを強化する指針が盛り込まれています。その一つが、「2020年までに新築住宅・建築物について段階的に省エネルギー基準の適合を義務化する」というものです。