首都圏の建築事情(4) ハタザオの土地の有効活用を

首都圏は土地に恵まれていないぶん、ユニークな形状で販売されている土地が結構あります。代表的なのは「ハタザオ」という形状の土地です。敷地の一部が、旗の竿(棒)のような状態の形で、たいていの場合は車が1、2台停められたり、玄関先までの通路のように使われることが多いです。通路的に使う土地も敷地に含まれるので、販売する際には土地の面積が広く感じられるのが特徴です。
ハタザオの土地は一般的に使い勝手が悪いと思われがちですが、私がこれまで手がけてきたなかでも、意外と日当たりがよかったり、駐車スペースをサオ部分に確保できることもあるので、モノによってはお買い得とも言えます。工事をする際に材料を運ぶのが大変なことが多いので、それは難点ですが(笑)、生活するうえでは問題がないことがほとんどです。

ハタザオだからいい、悪いではなく、いかに敷地全体を有効活用していくか、土地の良い部分を見て住まいの設計に活かせるかは、ぜひ私たちプロにご相談ください。土地購入の段階でご相談いただくのがおすすめです。

首都圏の建築事情(3) ご近所さんは選べない

狭い土地が多い首都圏で家を建てる場合、隣家や周辺住宅への目線や音、日射への配慮をした建築は大切です。一方で、建主や工務店がどれほど気を配っても、ご近所さんの人間関係は事前に把握できないことが多く、こればかりは住んでみなければわからないものです。

とはいえ、住んだ後に、ご近所さんにクレーマーがいたり、騒音や悪臭のあるご家庭があるといった、ご近所トラブルはしんどいもの。いくら素敵な住まいを建てても、近隣との関係で生活上にストレスを抱えてしまうのはつらいことなので、それを未然に防ぐために、できる限りの情報収集をしておくことが大切です。

土地の取得を検討している時には、不動産屋さんにご近所トラブルがないかどうか聞いてみましょう。不動産屋でそこまでの情報を持っているところは少ないかも知れませんが、かつてトラブルがあったような場合は伝えてくれるかもしれません。近隣を何度も訪れて自分の目と耳で確かめてみることも大切です。できれば土日に一度見るだけでなく、平日の生活時間帯などの様子を知っておくことをおすすめします。

首都圏の建築事情(2) 隣家との近さを克服する

首都圏で住まいを建てる場合、敷地面積が十分にとれないことがほとんどで、隣家と密接していることも少なくありません。窓を開ければ隣の家と目が合ってしまう……、というくらいの近さのなかで、周囲の目線を気にせず暮らせるよう、窓の位置や植栽にも気を配らなければなりません。

植栽で目線を遮る場合も、落葉した植物が隣家に入り込まないような配慮が必要になりますし、植物による日陰で日射影響が出ないような工夫も求められます。

また、音についても気を配るところで、どうしても生活音は出てしまうものの、最低限の防音対策は必要になります。

せっかく新しい土地で新しい生活を始める時に、近隣との関係性がよい状態でスタートできるよう、工事中から周囲への挨拶や現場の清掃を欠かさないよう、施工を担当する工務店としても気遣いを心がけています。

首都圏の建築事情(1) 小さな土地での住まいの建て方

大丸建設の営業範囲は、東京都の多摩地域(東京の島嶼部を除いた、おおよそ東京23区より西側の地域)がメインです。もちろん、東京23区も対象地域ですし、お隣の神奈川県川崎市や横浜市での建築を請け負うこともあります。営業エリアの特徴として、首都圏であるため土地の価格が高く、建築をするために十分な土地がない、土地の取得費が高額になるため住宅にかけられる予算が圧迫される、という傾向があります。多摩地域であっても、駅から遠いエリアや、先祖から受け継いだ大きな土地があるご家庭の場合は、敷地に余裕があるケースもありますが、それはかなり恵まれている状況ということができます。

そのため、私たちが住宅を作る場合、「限られた敷地のなかで、いかに土地を有効に活用して床面積を確保していくか」という条件下で設計から施工までを進めなければなりません。難しくもありますが、設計、施工の腕の見せ所でもあるため、私たちはたくさんの工夫をしています。

 

省エネ最新事情(2) 「でんき予報」に注目

今年の夏にたびたび耳にするようになった「電力ひっ迫注意報/警報」。ここ数年で、地震や台風での大規模停電や、3月に起きた電力不足による停電といった、電気が使えなくなる事態が起こり、生活に不便をした方もいたのではないでしょうか。2011年の東日本大震災後に発生した大規模停電、計画停電で、電気を使えない暮らしの不便さをあらためて思い出したのと同時に、これだけIT化が進み、電気なしでは暮らせないことも痛感しました。それだけに、「電気が使えなくなる」ことを回避するためには、日本全体で使用するエネルギー量を減らしていく必要性を痛感しています。

電力ひっ迫注意報/警報は、翌日の電力供給のために必要な電力の余力が一定規模を下回る場合に発令されます(3〜5%の時は注意報、3%以下の時には警報)。企業や工場などの産業・業務部門はもとより、家庭での省エネを広く呼びかけ、節電効果によって解除されます。今夏は「てんき予報」とともに「でんき予報」にも注目した夏になりました。

省エネ最新事情(1) 電力が足りない夏

2022年6月末、観測史上最速の梅雨明けという報道に、驚いた方も多いのではないでしょうか。梅雨入りからわずか20日ほどの梅雨明け、しかもその日から連日猛暑日という状況に、「この夏はどうなってしまうのだろう……」と不安を抱いた方も少なくないはずです。天気予報では連日「猛暑」を警告するのと同時に、「電力ひっ迫注意報/警報」が発令され、「猛暑なのに、エアコンをつけるのがはばかられる」といった、暑さに命を脅かされる状況が訪れていたと言わざるをえません。

この電力ひっ迫がなぜ起こったのか。それは、石油や天然ガスといった化石燃料が高騰して輸入しづらくなっていること、ウクライナ戦争の影響で世界的にエネルギー危機に陥っているなど、複数の要因があります。いずれにせよ日本はエネルギー自給率が低い国なので、エネルギー源を輸入に頼るだけでは限界で、再生可能エネルギーと省エネルギーの両輪で脱炭素化を進めていかなければならないのは明白です。

伝統的建築物の美 (8)建築探訪で「見る目」を養う

今月は、福岡県の大濠公園能楽堂や、私の好きな京都・清水寺本堂舞台を引き合いに、伝統的建築物の美しさについて語りました。日本には数多くの社寺建築が残っており、その土地ならではの構造や屋根の形状が見られます。雪深い地域かどうか、湿度や台風の襲来回数、宗派などによっても特徴があり、一つの建築物を見るだけでも歴史や文化の様々な側面を学ぶことができます。

ぜひ、伝統的な建築物を見にいくときには、拝観時にいただくパンフレットをよく読み、できれば事前にホームページなどで予習していくと、建築に関するより深い知識が身につくのではないかと思います。一度勉強したことは、折にふれて思い出すことができるので、他の場所を見たときにも「あ、これは檜皮葺だな」とか、「伝統構法は釘を使っていないと聞いたな」などと、共通の目をもって見ることができるようになります。

大丸建設の創設者は、伝統構法を得意とする宮大工でした。私は、その血を受け継ぐ者として、日本の伝統的な家づくりを後世に伝えていきたいと思います。

 

 

伝統的建築物の美 (7)上品な檜の木肌

大丸建設では日常的には杉材を用いた家づくりをしています。杉は建築材の中では早く成長し(約50年)、素直でまっすぐ、やわらかいので加工しやすく、国内でも大量に生産されているので比較的安価に入手することができます。日本の杉材の乾燥・加工技術は高く、建築用材として使いやすい材です。

一方、檜は杉と同じく針葉樹でまっすぐ、加工しやすい性質は共通していますが、杉よりも成長に時間がかかることから高級材として知られ、「総檜造の家」となれば建築費用もかなり高くなります。そのため、一般の住宅では床柱などの家の顔となる部分や、土台や浴室まわりなどの耐水性を求められる一部分に使用するのにとどまります。

伝統的建築物では総檜造を感じることができます。檜の木肌は杉の健康的な明るい色合いよりも、一段階落ち着いたグレーやシルバーの光沢が感じられ、しっとりとした上品な雰囲気です。木目の流れも穏やかで緻密さを感じられます。

杉のよさ、檜のよさ、それぞれなので、ぜひみなさんも「木肌」について観察してみてはいかがでしょうか。

 

伝統的建築物の美 (6)伝統建築のおさまりに注目

私自身、伝統建築物を見る時に最も注目するのは、柱や梁の接合部やおさまりといった、構造的な部分です。現代の住宅では耐震性や合理性のために釘や金物で接合部を固定することがほとんどです(これは現代の構造計算上は致し方ないことで、金物を使うことを否定しているわけではありません)。

伝統建築物では金物は使わず、貫(ぬき)や「ほぞ」といった、金物を使わず凹凸を組み合わせる、木の板をかませることで木を接合する、といった構法が用いられます。

伝統構法では、木目の流れや季節によって収縮と拡張を繰り返す木の持つ性質を最大限に生かし、木を組み合わせることによって釘や金物を使わずに済みます。金物は湿気によって錆びたり劣化するため、貴重な木材を再利用していくためにも使用しないという選択をしていたのかもしれません。耐震性においても、木組の家は地震の衝撃をやわらかく受け止めて分散させることができ、高級な社寺建築が今も残るのはこのような木の性質を最大限に生かした技術によるものだとうかがえます。

伝統的建築物の美 (5)清水寺の壮麗さ

私は旅行などで伝統的建築物を見るのが好きです。特に好きなのは、京都の清水寺で、京都に出張で行けば必ず立ち寄るほど、これまでに10回以上見に行っています。

清水寺は「清水の舞台から飛び降りる」という言葉で知られます。清水寺の本堂の舞台は国宝、世界文化遺産に指定され、舞台にかかる屋根は「入母屋造」という、上部が切妻になっており、四方に久屋根をつけた造りになっています。

清水の舞台が迫り出した高さは約13メートル。およそ4階建ての高さになり、下から見上げても、上から見下ろしても、大迫力の高さです。そして、驚くべきことに、この清水寺本堂舞台は伝統構法でつくられており、いわゆる金物(釘など)は使われていないことが特徴です。18本の欅(けやき)の柱を傾斜に合わせて並べ、縦横に「貫(ぬき)」と呼ばれる欅の厚板を通して接合している「懸(かけ)造り」という構法です。

なお、清水寺の舞台の床は「檜」で、まさにこちらも「檜舞台」です。