専門家が責任を持ってアドバイスする大切さ

私たちが大槌町に入って最初にやったボランティアは、津波の被害に遭った家の、畳の下の荒板をはがすことでした。畳などを運ぶ作業は同じチームの他のメンバーに任せ、私は建築的見地から、その家を大切に、元に戻せるような形で、板はがしの作業をまとめるように心がけました。
 その家は津波で1階が浸水し、お住まいだった方は「この家にもう一度住むことができるのか?」と心配されていました。私は建築的に判断して、「この家は建物としての耐震性は残っています。きちんと直せばもう一度住むことはできます」と答えました。ただ、津波で浸水した家は、独特の臭気が漂い、それをとることができるのかなど、本当にその家を直して住むのかどうかには、現実的な課題が残ります。
 被災された方々は、本当に生活が再建できるのか、家を直して住めるのかなど、様々な不安を持っています。ボランティアに来る方の多くは、何とか被災された方の役に立ちたいという気持ちで様々なアドバイスをします。「この家は大丈夫なのか?」という問いに対して、気持ちのうえで「大丈夫ですよ」と励ましても、それが建築的な根拠の上に成り立っているものでないと、被災者の方々にとっては、かえって混乱の元になりかねないのを、肌身で感じました。
 私は、アドバイスをするのであれば、自らの専門性を生かし、根拠をもって、的確におこなうように心がけました。責任も伴う判断であり、ボランティアの難しさと専門性を持って関わる意義を感じました。

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