中古住宅を取得する際のポイント

 耐震診断、耐震補強設計、耐震リフォームと、2カ月にわたり耐震についてご紹介してきました。今日はそのまとめです。
 今後の住宅建築の世界を鑑みると、これまでの日本の新築偏重主義から、中古住宅(ストック住宅)を直して住み継いでいく価値観に少しずつシフトしていくように感じます。
 日本の住宅の平均寿命は約30年と言われています。世界でも極端に短く、いかに住宅が大量生産・大量消費の流れで使い捨てされてきたのかがよくわかる数字です。1981年以前の建物が築30年を超え、ある程度淘汰されてきたこともあり、新耐震基準以降の、地震にもある程度強い堅牢な中古住宅が、ストック住宅市場での取引の中心になっています。
 今後は、中古住宅を直して住む、ほぼ骨組みの状態にして内装を自分らしくフルリフォーするような、そんな暮らしが増えてくるでしょう。
 基本は、耐震性がしっかり確保されていることです。そのポイントを押さえておけば、住宅取得はこれまでよりもラクになってくるのではないでしょうか。

耐震リフォームの予算

 耐震リフォームで最も気になるのは、予算だと思います。だいたいの場合、ただ耐震補強をするだけではなく、内装リフォームも一緒にやることが多くなるので、一概に予算を言うことはできませんが、耐震リフォームだけならば100万円から500万円の予算となります。
 耐震リフォームが可能か否か、それは基礎がしっかりしていることが前提条件になります。また、柱や梁などの構造材もきちんと入っていれば、直して使えます。前にもお話しましたが、基礎がダメであれば建て直しがベターです。例えば内装も含めてフルリフォームとなると、予算が1000万円を超えることもあります。それなら建て直しのほうがよい、という選択肢もあり得ると思います。
 私は、できることであれば、予算をかけても耐震リフォームをして、直して住み継ぐことをおすすめしています。なぜなら、家づくりはものすごく大変でかつ希望や思い入れが詰まっているもの。長年住んできた愛着もあります。直して住み継ぐライフスタイルは、これからますますニーズが高まってくると思います。

1981年-2000年に建てられた住宅も要注意

 今、自治体などによる耐震診断の補助の対象になるのは、いわゆる「旧耐震基準」と呼ばれる1981年の建築基準法改正以前に建てられた建物です。それでは、1981年以降に建てられた建物であれば安全なのでしょうか?
 1981年の改正以降、壁量の規定には変化はありませんが、2000年改正の基準法では、壁量をただ増やすだけではなく、X方向Y方向のバランスを整えるも耐震基準の要素に入っています。10月にお伝えしている「重心」「剛心」のバランスをイコールに近づけていく、偏心を極力少なくする設計は、2000年以降に重視されています(それ以前の建物でも良質な設計のものはバランスがよいですが)。
 そのため、1981年の新耐震基準以降に竣工した建物でも、2000年以前の竣工であれば、一度バランスをチェックすることも必要かと思います。バランスを重視していない設計の場合は、評点が1.0以下になることもありますので、気になる際はぜひお問合せください。

基礎補強をする

 壁量を増やす、金物で補強をする、それでも耐震補強が済まない場合や、そもそも基礎が安定していない場合は、基礎補強をします。
 基礎コンクリートにクラック(割れ目)が入っていたり、コンクリート自体が中性化するなど経年劣化を起こしている場合、基礎が地震の力に耐えられず崩れてしまう場合があります。
 基礎の補強には、「基礎の増し打ち」と言って、基礎を横に広げていきます。元の基礎の一部の鉄筋を出して新しい鉄筋につなげて外側からコンクリートを打つ、布基礎(基礎の外周部)の内側にベタ基礎(地面全面が基礎で固められる)を打つなどの補強方法もあります。また簡易的で有効な方法として、基礎の外側に強靭な金属板を張り付ける方法もあります。 
 あまりに基礎の状態が悪い場合は、残念ながらその住まいは耐震工事では対応できず、建て替えをおすすめします。

接合部を補強する

 耐震補強設計の基本は耐力壁を増やすことですが、次のステップでは接合部に金物を入れて補強します。耐力壁を増やす+補強するの組み合わせが、耐震リフォームのポイントです。
 柱と土台を緊結する、梁同士を金物でつないで補強する、柱と梁を補強して引き抜きが起こらないようにする、羽子板にボルトをつけるなど、幾つかのポイントがありますし、全部を補強することもあります。
 金物を使った耐震補強の考え方は、「建物の骨組みを金物で固めて補強する」ということです。昔の木造住宅は金物を使わず、ほぞ組などオール木造で、地震の際はやわらかくねばり強く揺れて、地震力を逃していました。いまの耐震補強の考え方とはそこが異なります。
 あまりに木構造が歯抜けで状態がひどい場合は、梁を入れ替えたり、添え木をすることもあります。

壁がたくさんあれば安心とは限らない

 偏心を少なくするためには、壁の量を増やしたり、窓を小さくする、窓の外に筋交いをつけるなどして、バランスを整えていきます。基本的には壁量を増やし、耐力壁を強化する方法をとりますが、逆に強い壁を減らすというアプローチもあり得ます。木造住宅の場合、バランスよく揺れれば家は倒れないという前提があります。必ずしも「揺れない」ように壁を強化して固めるのがよいとは限りません。
 地震の力によって建物が揺れる時に、強い壁が踏ん張ろうとして地震の力を負担し、そこに極端に力が入り崩れることがあります。弱い壁面を助けようとして逆に弱いところの揺れが少なくなるという場合もあるのです。
 よく、地震の際には壁に囲まれたところに逃げれば安心、と言われますが、そこに過重がかかりすぎてかえって危険なこともあります。
 時々「一部屋だけでも地震の際に安心な部屋をつくってほしい」と依頼されることがあるのですが、強いからこそ壊れることもある、そのため大丸建設ではバランスを重視した設計を心がけている、とお伝えしています。

「偏心」を起こさないようにするのがポイント

 前回、耐震補強のためにはただ壁量を増やすだけでなく、バランスをととのえることが重要とお伝えしました。昔の耐震構造が十分でない家に多いパターンは、南面が開口部で壁量が極端に少なく、北側に壁が多いためバランスがとれていない家。この場合、北面に地震の力が集中し北面を中心に揺れるため、南面が倒れ傾くことになります。揺れ方の偏りをなくせば、家が揺れても建物は倒壊しません。
 建物の中心のことを「重心(じゅうしん)」と呼びます。また、建物の固さの中心を「剛心(ごうしん)」と呼び、「重心=剛心」が一緒になるのが理想的な建物です。重心と剛心のズレを「偏心(へんしん)」と呼び、偏心が大きいほど揺れ方が偏り倒壊の可能性につながります。偏心をなくすためにバランスを整えること、偏心そのものを少なくするのが、耐震設計の大切なポイントです。

耐震補強設計について

 耐震診断をして、評点が「1.0」に満たない木造住宅は、大地震の際に「倒壊する可能性がある」と判断され、評点が最低でも1.0になるよう耐震補強設計を行います。
 最も大切なのは、住宅の壁量を増やすこと。壁とはすなわち耐力壁のことで、単なる間仕切りの壁ではありません。そのため、筋交いを入れたり、構造用合板を張り面で強化する手法をとるのが一般的です。
 壁量を増やすことは、最も大きな要素であり、かつ最重要です。それも、ただ量だけ増やせばよいわけではなく、家のX方向-Y方向の両面のバランスがとれていることが大切です。ただひたすら壁を強く固めればよい、というのも誤りです。場合によっては一部の壁を減らしてX方向Y方向のバランスを調整することもあります。

「1.0」が耐震性能の目安

 耐震診断の結果は、1階、2階とも、X方向とY方向の耐力をチェックし、4つの数字の中うち最も小さな数字がその家の耐震性能になります。
 例えば、1階の場合、昔は南側に開口部を設けることが多く、窓が大きい分壁の量が少ないと言えます。そうすると、1階の一つの方向の耐力が極端に弱いので、地震の際はその弱い部分に重みがかかって倒壊の危険性が高まるというわけです。
 耐震性を表す数字を「評点」と言いますが、1.0が耐震性を保有しているギリギリの数字で、それ未満だと倒壊の可能性がある、ということになります。耐震診断をした建物が実際に持っている耐力を「保有耐力」と言い、建物が本来持っていなければいけない力を「必要耐力」と言います。必要耐力が分母で保有耐力が分子になり、この割合が0.3くらいですと、倒壊の可能性が高いと言えます。逆に保有耐力が1.5くらいの家は地震に十分耐えうる力が強いと言えます。
 耐震補強をするには、壁に筋交いを補強したり、土台と筋交い、柱を専用の金物で固定したり、鉄筋で基礎を補強したり、構造用合板で外側の壁を固めるなどの工事が必要になります。具体的にはまた改めてお話したいと思います。